森本ティーチャーの英語が終わり、ぼおっとしていた。
遠くで、電車が鉄橋。渡る音が聞こえる。
何気なく、窓の外を見た。
体育館横の小階段に、数人の男子が座っているのが見えた。
「あのひとたち」だ。
菊池くんも、いる。
メンバーは、各学年にそれぞれ五、六人。
髪を染めたり、制服を原型がわからないくらい着崩していて、トイレや非常階段で、いつもかたまっている人たち。
(仲間がいて、いいなぁ……)
昼休み、お弁当を食べ終わると、いつものように勉強道具をもって、1人で教室を出た。
ドアを閉める時に、小坂さんと目が合ったけど、すぐに視線をそらして、陸上部の子たちとおしゃべりを始めた。
階段を降りて、二組の前を通る時、何気なく教室を見たら、ブルーグレーの瞳がこっちを見ていた。
「あ、さっきの」
(げっ、菊池くん!)
私は急いで前を向いて、聞こえないふりで廊下を早歩きした。
「ちょっと、待てよ」
うしろから声が聞こえたけど、それでも無視して走って逃げた。
さっき、ちゃんと謝ったのだ。
もう文句を言われる筋合いはないはず。
「先生~!あそこの女子、廊下走ってまーす!」
振り返ると、同じクラスの中島くんが、いつの間にか菊池くんの横に立っていて、こっちを指さして叫んでいる。
ひぃ~!
私は大急ぎでつきあたりの階段を駆け上がり、西校舎の1番端にある図書室へ向かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。