どきどきする心臓を押さえて、そっと扉を開いた。
すこしかびくさい空気を吸い込むと、ちょっとだけ、気持ちが落ち着いた。
カウンターに座っている図書委員にぺこりと頭を下げて、いつもの席に勉強道具を置く。
ぐるりと周囲を見回す。
グラウンド側の長机の端で、髪を長くたらした女子が、真剣な顔でマニキュアを塗っているのが見えた。
同じクラスの林田さんだ。
私が見ているのに気がつくと、わざとらしく背中を向けた。
(まだ、怒ってるのかな)
4月の末にあった修学旅行で、私は林田さんと同じ班だった。
私が言うのもなんだけど、林田さんも、クラスに友達がいない。
背がすらりと高くて大人っぽい。
同性の私でも、どきどきするくらい、きれいな人だ。
私の班は、あまりものの寄せ集めで、林田さん、中島くん、三年生になって一度も学校に来ていない高橋くんの4人だった。
当日、やっぱり、高橋くんは来なくて3人で行動することになった。
なのに、初日のオリエンテーリングのとき、林田さんは制服のスカートを超ミニにしていて、私たちの班はいきなり失格になってしまった。
「なんだよ、もう。俺、せっかくシャツインしたのに」
いつもは、制服のズボンを引きずるくらいずりさげている中島くんも、その時だけはちゃんと着ていたのだ。
「どうして、そんなにスカートを短くしてるの?」
私が聞くと、林田さんは肩をすくめた。
「だって、ミニの方が、オトコ受けするし」
「でも、モテる人はちゃんと着てても、モテると思うけど」
(そんなことをしなくても、林田さんはきれいなのに)
そういうつもりで言ったのに、林田さんは私をにらみつけた。
「なに、それ。あんた、自分が標準服着ててもモテるって、言いたいわけ」
「へっ?」
きょとんとする私を置いて、林田さんはさっさとバスに乗り込んだ。
「なんだよ、もうー。たのむよ」
中島くんが、文句を言いながらそのあとに続く。
(なに、それ。私だって、訳わかんないよ!)
そのあと、私たちはとても気まずい雰囲気の中で、三日間の旅行を終えたのだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。