第3話

ブルーグレーの瞳。2
381
2018/08/31 12:58





スカートをひるがえし、北校舎への角を曲がったとたん、目の前に大きな影が立ちふさがった。

と、思ったら、おでこのあたりにすごい衝撃が走った。


「わっ」

「……ってえ」


教科書も、ペンケースも、ノートも、全部廊下にぶちまけて、派手にすっころんでしまった。


「いったあ」


体を起こそうとしたら、小坂さんグループの笑い声がすぐうしろから聞こえてきた。


(やばい!こんなとこ見られたら、ばかにされちゃう!)


私は、ぶちまけた自分の荷物をたぐりよせて、猛ダッシュで走り出した。


「ちょっと待てよ」


たぶん、出会いがしらにぶつかったであろう男子の声がしたけど、今はそんなこと、かまっていられない!


「ごめんなさい!」


聞こえたかどうかわからないけど、とりあえず謝って、階段を2段とばしで駆け上がり、そのまま八組の教室に飛び込んだ。

まだ、誰も帰ってきてない。

教室のドアをぴしゃりと閉めて、自分の席につき、机に倒れこむ。


「……はぁ。なにやってんだ、私」

さっき、思いきりぶつけたおでこをさする。


(廊下でこけたことなんて、普通は友達と笑い話にするものなんだろうな)


私はおでこを押さえたまま、じっと机を見つめた。


カラカラカラ


その時、ドアの開く音がした。

顔を上げると、教室の入り口に、鋭い目つきの金髪の男子が立っていた。

菊池風磨。

「あのひとたち」の一員。

入学した時から、ずっと髪を金色に染めている。

学校中で、一番背が高い。

たしか、二組だったはず。

私とは、関係ない人。……のはずだけど。


「さっき、俺にぶつかってきたの、おまえだろ」


ガーン!

さっきのって、菊池くんだったの?

どうしよう~っ!

……だけど、たしかに、ぶつかっていったのは私だ。

立ち上がって、深々と頭を下げた。


「ご、ごめんなさい。あの、すみませんでした」


ゆっくり、一、二、三と数えてから、顔をあげてみた。

菊池くんは腕を組んで、まだ、こっちを見ている。


「……そんなんじゃねえよ」


低い声で、つぶやく。


(はっ?『そんなんじゃねえ』って、どういう意味?謝り方が足りないってこと?)


私はあわててまた頭をさげた。


「本当にごめんなさい!」


四、五、六、七、八、九、十……。

もういいかなと、おそるおそる顔を上げてみたけど、菊池くんはまだ同じ姿勢でこっちをにらんでいる。


(ギョッ!これでも、まだダメなのお?)


時計の秒針が、チッチッチッと、音を立てる。

私は、だんだんイライラしてきた。


(ちゃんと謝ったのに、しつこくない?)


ちらりと時計を見ると、次のチャイムまであとすこし。

廊下が、だんだん騒がしくなってきた。


(やばい、小坂さんたちが帰ってきちゃう)


この状況を見られたら、噂話のネタにさせるかもしれない。

私はいやみったらしく大きな声で、「どうもすみませんでした!」ともう1度頭をさげて、さっさとイスに座り直し、カバンから英語の教科書を引っ張りだした。

菊池くんの視線を感じるけど、ちゃんと2回も謝ったんだから、もう関係ない。


カタン


机がぶつかる音がする。

顔を上げると、菊池くんが、すぐそばまで来ていた。


(ひょえええ~っ!なんなの~っ?)


思わず、息を吸い込んだ。

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