スローモーションのように、ステージの下へ落ちて行くレオちん。
カメラが倒れる激しい衝撃音と共に――
それまで笑い声に包まれていた会場は、一瞬にして悲鳴の渦と化した。
驚くマネージャー陣を押しのけ、私は夢中で彼の元へ駆け寄ろうとする。
しかしその身体は、あっという間に
四方から飛び出した大勢のスタッフによって阻まれてしまった。
早く助けなくちゃいけないのに。
真っ先に駆け寄らなくちゃいけないのに。
石のように固まってしまった私の身体は、なぜか全く言うことを聞いてくれない。
――やがて、遠くから聞こえて来るサイレンの音。
ステージ下に群がるスタッフに紛れて、
眠るように瞳を閉じるレオちんの姿が視界に飛び込んだ瞬間――
私の目の前も、真っ暗に閉ざされた。
* * *
……その後のことは、よく覚えていない。
担架に乗せられても一向に目を覚まさないレオちんに、
縋り付くようにして救急車に乗り込んで――
気付けば、病院の待合室で治療が終わるのを待っていた。
氷のように冷たくなった指先をさすりながら、
私は祈るように瞳を閉じる。
休日で静まり返った待合室に、コツコツとヒールの音が響く。
やがて、その音は私のすぐ近くで立ち止まった。
見知った顔を目にした瞬間、じわ、と涙腺が緩む。
彼が次の言葉を発する前に、私はぼろぼろと涙をこぼしながら頭を下げた。
バシッと容赦のない音と共に、目から火花が飛び散る。
じんじんと痛む額をさする私を前に、アキ姉は深くため息をつく。
社長業は忙しいらしく、今日は大事な打ち合わせがあるからと
会場には同行できなかったアキ姉。
いつも綺麗にセットされた彼の髪は乱れ、
メイクもところどころ崩れてしまっている。
その様子は暗に彼の心の内を表しているようで、
見ていると申し訳なさで心が潰れるように痛んだ。
アキ姉から差し出されたティッシュで盛大に鼻をかんでいた時。
おそるおそる遠慮がちにかけられた声に、ぱっと振り返る。
* * *
看護師さんがドアを開くと同時に、私は病室へ飛び込む。
頭にぐるぐると包帯を巻かれたレオちんは、
ベッドから身体を起こしてお医者さんと話をしていた。
ベッドサイドを握りしめる私の手に、そっとレオちんの手のひらが添えられる。
彼が生きていることを示す優しい温もりに、再び涙がこみ上げた。
――私たちは、上を目指して走ってきた。
たくさんの可能性を秘めたレオちんを、
たくさんの人に好きになってもらいたかった。
目の前でレオちんが元気でいてくれるだけで――
それだけで、私は十分だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!