晴れた昼下がりの商店街。
差し入れが入ったビニール袋を下げて、
私はイヤホンから聴こえるレオちんの配信に耳を澄ませる。
【例のイベント】から、一ヶ月が経とうとしている。
意識を失うほどの事故を起こしたにも関わらず
翌々日にはけろっと配信に顔を出したレオちんは、
配信者界隈では一躍時の人となっていた。
バク転しようとしたレオちんが見事なフォームでステージを落下するサマは
ネタ動画にされてバズってしまう始末。
アキ姉と共に三人で、いったい何社のクライアントに頭を下げに行ったかわからない。
それでも彼の無邪気に配信を楽しむ姿は、結果として多くの人の目に触れることになった。
今流れている配信だって、私が彼と出会った頃からは
考えられないくらいの数のリスナーが視聴してくれているようだ。
彼のおしゃべりをBGMに苦笑いを浮かべ、私は事務所への道を急いだ。
* * *
オープンスペースで作業をしているとドアがガチャリと開き、
配信を終えたレオちんが顔を覗かせる。
ほんのりと温かいビニール袋を受け取ったレオちんは、ぱっと瞳を輝かせる。
きらきらと瞳を輝かせながらたこ焼きにマヨネーズをかけるレオちんを前に、
私は作業中のノートパソコンを閉じた。
良かったら、と視線で示された音楽プレイヤーを手に取る。
配信前の貴重な音源を聴けるなんて贅沢過ぎて、
うっかりただのファンに戻ってしまいそうだ。
ドキドキと高鳴る鼓動を抑えながら、私はイヤホンを耳に挿した。
再生ボタンを押した瞬間、ぶわっと花畑のように広がる歌声とリリック。
いつもは元気なレオちんの甘い声が、耳の奥で柔らかく響き渡る。
音楽プレイヤーを握りしめながら天を仰いでいた私は、
彼の呟きに気付いて視線を戻す。
何か言いたげに、じっとこちらを見つめる彼。
熱をはらんだような眼差しに、一瞬ドキリとしたけど――
自らもほっぺを丸く膨らませたレオちんに差し出されるまま
たこ焼きをぱくりと食べると、彼の瞳が優しく細められた。
確かに羽目外されちゃうとびっくりするけどさ……と付け加えると、
レオちんは困ったように笑う。
言葉の一つ一つを大切そうに繰り返しながら、
レオちんは幸せそうに微笑む。
かつて画面の向こうで輝いていたレオちんは、
今は目の前でそのきらめきを放っている。
広い広いネットの海に揺蕩いながらも、
それでも確かに前へと進んでいる。
――私もプロデューサーの端くれとして、そして一人のファンとして。
これからも彼の隣で、配信という自由な世界を
思い切り走って行きたいと思ったのだった。
~ Fin ~
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!