~ 翌日 ~
仕事帰りの電車に揺られながら、片手でスマートフォンを開く。
コラボ配信とは、その名の通り複数の配信者同士で行う配信のこと。
特に新人の配信者にとっては、色んな視聴者に自分の存在を知ってもらえる良い機会だ。
そんな淡い期待を抱きながら開いたSNS。
キーワードを打ち込むなり飛び込んできた言葉の数々に、
私の心臓はどくん、と不穏な音を立てる。
思わず声を上げそうになるのを、ぎゅっとこらえる。
憤慨しながら画面をスクロールしていたところで、
レオちんの呟きが遠慮がちに現れた。
* * *
誰もいない職場の休憩室で、私はすっかり取りそびれた昼食を食べていた。
ペットボトルに立てかけられたスマートフォンに映る、先日のアーカイブ動画。
動画内では和気あいあいとしたやり取りが繰り広げられているものの――
ちょっとしたところで不器用さを見せるレオちんに、
もしかしたらCHIKAGEのファンをイラつかせてしまったのかもしれない。
すぐそこで、推しが苦しんでいることはわかるのに。
ファンはいつだって近くで助けてあげられない事実が、今はただもどかしい。
テーブルに突っ伏していると、不意に背後でガラッと扉が開く音がした。
遠回しに職場をディスる麗奈ちゃんに引きずられるようにして
慌てて窓口へ戻ると、そこには――
ランウェイからそのまま歩いて来たような、
ハイブランドのファッションに身を包んだ美女の前に
私はおずおずと腰かける。
瞬間。
頭の中で、欠けていたパズルのピースがかちりとはまる。
それは、年齢を重ねる毎に薄れていた高校時代の記憶。
『被服部のカリスマ部長』として、
圧倒的なオーラを放っていた【男子高校生】と言えば――
あまりに強烈な再会に、頭が追いつかない。
目を白黒とさせる私をよそに、アキ姉はカウンターから身を乗り出して声を潜めた。
香水の強い香りを残して、嵐のように彼(女)が去った後。
カウンターの上に、一枚の名刺が置いてあることに気付く。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。