心の準備を整える間も与えられず、アキ姉によって開け放たれたドア。
柔らかい陽射しが差し込むガラス張りの空間で、私達を待っていたのは――
来客用の大きなソファに座っていた
パーカー姿の青年が、くるりとこちらを振り返る。
柔らかいブラウンの髪に、少年のように無邪気な笑顔。
目の前にいたのは、紛れもなく――
私の最推し、『レオちん』だった。
『想像通りのプロデューサー』で喜ぶべきか否か答えを出せないまま、
私はアキ姉に促されてソファへ座る。
アキ姉のさばさばとした声に促され、
レオちんは膝の上できゅっと拳を握る。
ファンとして、いつだって彼の悩みや苦しみを理解して、寄り添ってあげたいと思って来た。
だって、それがファンの務めだから。
いざ面と向かって彼の苦しみを耳にすると、
まるで自分のことのようにぎゅっと胸が苦しくなるのを感じる。
ぎこちない喋り方の私に、レオちんは
「タメ語でいいよ」とふんわりと微笑む。
凛と透き通る声に、はっと顔を上げる。
いつも私達を隔てていたモニターの画面は、今日は存在しなくて――
レオちんの瞳は、まっすぐに私へと向けられていた。
マイクに向かって一人で喋り続けるのって
実は結構孤独なんですよ、とレオちんは笑う。
つんと鼻が熱くなるのを慌ててこらえ、私は頷く。
こうして絶賛人気低迷中の配信者・レオちんと
ド素人プロデューサー(私)の、
奇妙な二人三脚が始まることになったのだった――
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。