CHIKAGEの騒ぎから数日後。
久しぶりにアキ姉から電話がかかって来たかと思えば、
もう小一時間は愚痴に付き合わされている。
聞けば様々な事務所に所属する配信者が集まるトークイベントに、
CHIKAGEは登壇する予定だったらしい。
電話越しに聞こえるため息に、ふと頭の中でぴこんと電球が光る。
無理を承知で提案すれば、案の定「アンタねぇ」と
呆れたような声が返って来る。
無意識に大きい声を出してしまい、慌てて口を覆う。
いくらチャンスが目の前に転がっているとは言え、
最終的な判断を決めるのはレオちんだ。
いくらプロデューサーだからって、勝手に決めていいことではない。
重たい沈黙に、ごくりと喉が鳴る。
再び口を開いたのは、アキ姉の方だった。
スマートフォンを耳にあてたまま、私は深く深く頭を下げた。
* * *
待ち合わせをしていた駅前でレオちんの姿を見つけ、
私はパンプスのヒールで歩道を蹴って駆け出す。
プラカップにたっぷり入ったカフェラテを啜っていたレオちんは、
驚いたように振り返った。
きょとんと首を傾げるレオちんをこれ以上心配させないように、
私は大きく息を吸って呼吸を整える。
ただでさえぱっちりした瞳をさらに丸くさせて、レオちんは私を見つめる。
一寸のためらいもなく返って来た声に、驚いて顔を上げる。
その決意にこみ上げるものを感じながら、私は頷く。
彼に挑戦し続ける熱い気持ちがあるのなら――
ファンでありプロデューサーでもある自分は、全力で応援するまでだ。
目の前に差し出された画面には、
レオちんが楽しそうに歌う様子が映し出されている。
突然舞い込んだチャンスに、レオちんの新たな挑戦。
ふわりと足元が浮かび上がるような高揚感を覚えて見上げると、
彼は少しだけ恥ずかしそうに微笑んだ。
今までは先輩のやり方を真似するばっかりだったから、と話すレオちんに相槌を打つ。
――少しずつ、それでも確かな足取りで。
一歩ずつ前へ向かって行く手応えを感じながら、私達は頷き合った。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。