慣れないスーツのジャケットを羽織った背中に、じっとりと汗が滲む。
緊張で全身を強張らせる私の隣で、
レオちんは好奇心全開で会場を見渡していた。
だって初舞台だし!と意気込むレオちんのいつも通りな様子に、
少しだけ気持ちがほぐれるのを感じる。
今日はいよいよ、彼が登壇するイベントが開催される日だ。
怪訝な表情をされるのも構わず、
レオちんはおじさん集団に笑顔でぺこりと頭を下げる。
彼が集団から離れると、ひそひそと囁き合う声が聞こえた。
思わず反論しようとする私の腕を、レオちんがぎゅっと掴む。
振り返れば、彼はまるで私を安心させるように優しく微笑んだ。
その言葉に、どきん、と小さく胸が音を立てる。
まっすぐにステージを見据える横顔は、
これまで私が見てきたどんな表情よりも凛々しくて――
『新人』なんて肩書きで呼んではいけないくらい
彼はもう、とっくに立派な配信者になっているのかもしれなかった。
* * *
舞台脇に設置されたスタッフエリアから、
私はステージ上の様子をじっと見つめる。
若い女の子を中心に、大人から子供まで様々な年齢層が集まる観客席。
地道な挨拶回りが功を奏したのか
レオちんが他の出演者からいびられることもなく、
イベントは思ったよりも和やかな雰囲気で進んでいた。
ステージ上で繰り広げられる掛け合いに、客席からどっと笑いが起こる。
登壇者の中でも年齢の低いレオちんはいじられキャラのようで……
素直さからくる天然発言で、たびたび会場を沸かせている。
突然の無茶振りに、一抹の不安がよぎる。
けれど、レオちんは得意げにパーカーの袖をまくって見せた。
さんっ! と反動をつけた長身が、しなやかに宙を舞う。
伸ばされた両手がキレイに着地を決めたかと思いきや――
勢い余った彼の身体は、そのままステージの下へと
真っ逆さまに落ちて行ったのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。