第5話

5話 ファンは応援しかできません
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2021/12/03 04:00
レオちんのプロデュースを引き受けてから、数日後。
レオ
レオ
『あなたさん、今日のお仕事はもう終わりですか?』
(なまえ)
あなた
『うん! 打ち合わせの場所、もし希望あったら合わせるよ』
レオ
レオ
『ありがとうございます! そしたら――』
メッセージと共に添えられたゆるキャラのスタンプに、思わず口元が緩む。

彼から送られてきた場所を地図で確認して、私は待ち合わせ場所へ急いだ。

 *   *   *

キャンパス内のカフェテリアで顔を突き合わせる私達のそばを、
スポーツウェアを着た学生が歩いて行く。
レオ
レオ
すみません! この後配信あるからって、ワガママ聞いてもらって
(なまえ)
あなた
全然大丈夫だよ。それよりもすごいね!
レオちん、体育大に通ってただなんて知らなかった
レオ
レオ
褒められるほどじゃないですよ。
部活とかサークルとかやってないから、
みんなほど運動してないと思うし……
この通り配信者なんで、とおどけるレオちんに頷きを返す。
確かに今日は今後の方向性について話し合う、大事な打ち合わせだ。
レオ
レオ
配信の時間……については、これまで通りで良いと思います。
夜の方が見てくれる人は多いと思うし、平日は俺も大学があるから
(なまえ)
あなた
そうだね。動画のサムネイルとか、チャンネルページのデザインはどうする?
おじいちゃんのパソコン教室から脱却したいって話してたけど……
レオ
レオ
あ! それ、実は高校時代の友達が手伝ってくれることになったんですよ。
大学で映像系の授業取ってるらしくて、勉強も兼ねて作ってくれるって
(なまえ)
あなた
そっか! それなら良かった
手帳を開き、話し合ったことを一つ一つメモして行く。

――どうしたら、今よりもっとたくさんの人に配信を見てもらえるか。
――どうしたら、初めて配信を見てくれた人が、次も見ようって思ってくれるか。
――どうしたら、レオちんの魅力をもっといろんな人に伝えられるか。

答えの見えない課題は山盛りで、うーんと頭を悩ませる。
(なまえ)
あなた
……ところで、レオちんってなんで配信やろうと思ったの?
レオ
レオ
え、俺ですか?
(なまえ)
あなた
うん。配信やる人ってたくさんいるけど、
レオちんは何かきっかけとかあったのかな〜、って思って
レオ
レオ
ああ、
納得したように頷いたレオちんは、「はい」と
唐突に自らのスマートフォンの画面を見せる。
(なまえ)
あなた
わ……かわいい。この犬、レオちんの?
レオ
レオ
はい。俺が高2の時、事故で死んじゃったんですけど
(なまえ)
あなた
え……
愛おしげに画面を見下ろす優しい眼差しの中に、ふと寂しげな感情が混ざる。
レオ
レオ
小さい頃からずっと一緒にいたんです。
一緒にい過ぎて、まさか急にお別れする日が来るなんて思いもしなくて……
(なまえ)
あなた
そっか……辛い経験したんだね……
レオ
レオ
はい。さすがにあの時は堪えたなー。
毎日泣いてばっかで、笑うことすら忘れちゃって
(なまえ)
あなた
え、レオちんが!?
レオ
レオ
そうなんですよ。
でもその時、たまたま『ドキ動』にアップされた動画に出会ったんです。
知ってます? 『ドキドキ動画』
(なまえ)
あなた
もちろん。歌ってみたとか踊ってみたとか、たくさん投稿されてるよね
レオ
レオ
そう。その曲も、とある歌い手さんのカバーだったんですけど……
メロディラインとか歌詞とか、当時の俺にすっごく刺さって。
あの曲に出会えなかったら、俺は立ち直れなかったと思う
(なまえ)
あなた
ふふ。じゃあ、その曲がレオちんにとっての『きっかけ』だったんだね
レオ
レオ
ですね。俺もあの時みたいに、一人でも多くの人を
笑顔にできる配信者になれたらいいなって思って
今の事務所に入れてもらったんですけど……
現実はなかなか上手く行かなくて
困ったように笑うレオちんを前に、私は考えを巡らせる。
(なまえ)
あなた
(そう言えば……)
踊ってみた。歌ってみた。

食べてみた。飲んでみた。行ってみた。乗ってみた。

世の中には、実にたくさんの動画が溢れている。
(なまえ)
あなた
……だったらさ
レオ
レオ
ん?
(なまえ)
あなた
レオちんも、歌ってみたらいいんじゃない?
レオ
レオ
……え、
えええ!? と椅子ごと飛び退いたレオちんのリアクションに、
周囲でくつろいでいた学生たちが驚いて振り返る。
レオ
レオ
歌うんですか? 俺が、歌を!?
(なまえ)
あなた
そう。だってなんかレオちんゲーム苦手そうだし……
レオ
レオ
あっ、それ地味に傷つくやつ
(なまえ)
あなた
ごめんごめん。でも……
(なまえ)
あなた
多分だけど、配信に正解ってないんだよ。
もし今の配信で視聴者が伸びないなら、
レオちんには別のコンテンツが求められてるのかもしれない
レオ
レオ
確かに……?
(なまえ)
あなた
失敗して当たり前なんだから、
いろんなことにチャレンジしてみるのが一番だと思うよ。
……なんて、別に私が偉いこと言える立場じゃないんだけどね
レオ
レオ
あなたさん……
――こんな私でも、一つだけ胸を張って保証できることがある。

それは……ファンならどんなに『推し』が失敗しようと、
幻滅したり嫌いになったりすることなんてない、ということだ。
(なまえ)
あなた
(だって私達は、その全てをまとめて『推せる』から)

うーんと唇を尖らせて悩む『推し』へ向けて。

私は心の中で、密かにエールを送った。

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