「ずいぶんと飲んだみたいだね」
「あーうんー、まぁねー」
「飲まされた? 咲夜さんから」
「違うよ。自分からすすんで飲んだの。美味しかったから」
咲夜とは姉の婚約者だ。
今日、姉は咲夜とデートだった。僕はさらに質問した。
「何を飲んだの?」
「えーと、シャンパンとカクテル」
「何杯?」
「覚えてないよぉー。五杯くらい?」
姉はお酒が弱い。
つまり五杯飲めばベロベロの状態だ。
現に、隣で座っている姉は天井を眺めたままぼんやりしている。
そんな姉の頬はお酒で赤くなっていた。
今日は咲夜とどんな話をしたのだろう。
上手い食べ物を食べてご機嫌な様子だ。
咲夜はなんでも金で解決しようとする。
俺たちは貧乏だから、そういうサービスには弱い。
だからこそ、余計に面白くなかった。
姉のことを一番に想う弟としては、いとも簡単に姉の心を射止められ心中穏やかでない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!