第5話

3,274
2021/01/18 09:21


深い息を吐いた。


隣では、ソファーの背にもたれかかる姉がアルコールの匂いを漂わせている。


甘い香水の香りも混ざっていた。


先月咲夜に買ってもらったものだ。


僕はこの匂いがきらいだった。


嗅ぐたびに咲夜という存在を思い出すからだ。



「春樹ー、お水ちょうだい。喉乾いちゃった」


「うん」



僕はソファーから立ち上がるとキッチンに行き、コップにお水を入れた。


一度姉のほうを見る。


目を閉じているのを確認して、僕はポケットからチャック付きの小さなビニール袋を取り出した。


その中に入っている白い錠剤を一粒をつまみ出す。


ビニール袋をふたたびポケットに仕舞うと、姉のそばに行った。


水の入ったコップと錠剤を差し出す。



「はい」


「なにこれ」


「いつもの消化剤だよ。ほら」



姉の手のひらに錠剤を置いた。


姉はそれをしばらく見つめたあと、僕に優しく笑いかけた。



プリ小説オーディオドラマ