「お待たせしました。」
席に向かうと、40代くらいのおじさんが2人座っていた。
『えーっと、おすすめのケーキとかってありますか?』
「おすすめですか?」
『はい。』
「私が個人的に好きなケーキは、ショートケーキとモンブランですね!」
『そうなんですね。じゃあ、ドリンクは?』
「そうですね、こちらの…」
メニューを見ようと、お客さんの方に1歩近づいた瞬間だった。
(カシャ)
…え?
なに、シャッター音?
小さい音だったけど確かに聞こえた。
横を見ると、さっきまで携帯を触っていたもう1人のおじさんが、
気味の悪い笑みを浮かべていた。
…え?もしかして、撮られた?
言いたいけど、もし私の勘違いだったら…
そう思って諦めた時、
(バンッ)
誰かがテーブルを叩いた。
『おいおっさん、今撮ったやつ消せよ!』
さっき、シュークリームを注文してた人だ。
『な、なんのことだ!?君の勘違いだろう!
言いがかりはやめてくれないか?』
『言いがかりなんかじゃないですよ。
俺、あなたが盗撮するとこ写真撮ってたんで。』
塩キャラメルパフェを注文してた人…
初めて会った人のために、こんな行動を起こしてくれて、ヒーローみたいだと思った。
『だ、だいたい!そんなに足を出してる方が悪いんだろ!そんなの、撮ってくださいって言ってるようなもんだ!そんな制服を着てるほうが悪い!』
今、カフェの制服をバカにしたの…?
『まじでいい加減に…』
「あの!」
シュークリームを注文した人の言葉にかぶせて声を出した。
「このカフェのことをバカにするのはやめてください。」
写真を撮られたのは私の不注意でもあるから、もうどうでもよかった。
でも、神崎さんのカフェをバカにされたことはどうしても許せなかった。
(ポンッ)
言い返したところで、誰かの手が頭の上に乗った。
「神崎さん…」
後は俺に任せて。
とでも言うようにウインクをして、
神崎「今すぐに撮った写真を消してください。
それが済んだらこの店から出ていってください。そして、もう二度といらっしゃらなくて結構です。いえ…」
ここまで言ってから、さらに近づき、
神崎「二度と来るな。」
私たちに聞こえないくらい小さくて、
いつもより低い声でそう言った。
その後、おじさん達は出ていった。
「あ、あの、私のせいですみません。」
本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
店内には他のお客さんもいたのに…
神崎「何言ってるの!」
さっきの声と同じ人とは思えないくらい優しい声で、
神崎「あなたちゃんが謝ることじゃないでしょ?それに、俺嬉しかったんだから!」
「え?」
神崎「制服のこと言われた時に言い返してくれて!」
「あ、あれは!バカにされたことに腹が立って…」
神崎「そう思ってくれたことが嬉しいよ。
君たちもありがとう。あなたちゃんを守ってくれて。」
あ、そうだった、
「あの!本当にありがとうございました!」
『気にしないでください!たまたま目に入っただけなので!』
「なんとお礼をしたらいいのか…」
『あ、あの、もし良かったらなんですけど…』
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(パシャ)
何を言われるかと思ったら、
私との写真が欲しいって言うからびっくりした。
なんのお礼にもならないと思うんですけど…
『ほんとにありがとうございます!』
「い、いえ、そんなものでいいんですか?
えーっと、」
…名前知らない!
『あ、俺、花巻貴大っていいます!高3!』
「私2年なので、敬語やめてもらって大丈夫ですよ!」
花巻「ほんと!あ、こいつは後輩で、」
『国見英。1年です。』
花巻さんが3年生で、国見くんが1年生…
花巻「また来るね!」
国見「…パフェ、美味しかったです。」
「はい!待ってますね!」
そう言って2人は帰っていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。