帰りのホームルームが終わり、クラスのみんなは部活や委員会、バイトなどそれぞれの目的に向かって散らばっていく。
美優ちゃんの後ろ姿が見えなくなった後、私は“ふぅ”と小さくため息をついた。
というのも、校舎内はオフィスビルのような造りになっていて、どのフロアに何の教室があるのか案内を見なければわからない上に、一つ一つのフロア自体も広くてトイレを探すのも一苦労なのだ。
私が隣の席に“彼”がいないことを確認すると、その目線に気づいたのか、すかさず凪くんが口を開く。
凪くんは“違った?”と笑顔で首を傾げた。
何故か、ニコニコとしながら私の話を聞いている凪くんに問う。
頭の中にはクエスチョンマークが飛び交う。
“嫌なら入らなくてもいいんじゃね?”
“学園長の提案だからって、嫌々やられても迷惑だし”
“ つか、正義感が強いんじゃなくて、こいつはただ考えなしなだけだろ”
“彼”のことを話す凪くんの表情はとても優しくて、
私の強張っていた表情もいつの間にか和らいでいた。
私は、何か勘違いをしていたのかもしれない。
“一ノ瀬 律”という人のことを、ちゃんと知りたい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。