私は、エレベーターの中で眠らされた事を思い出し、目の前にいる男子生徒に視線を戻した。
“誰に”そう尋ねようとした時、聞き覚えのある低い声が耳に届く。
その男子生徒はただ黙って床を見つめている。
そう言われて去っていく男子生徒の姿が見えなくなった後、私は口を開いた。
睨みつけながら言うと、チンピラ男子は勢いよく私の顔の横に手をついた。
今度は、手をついている方とは反対の手で私の顎を乱暴に掴む。
普通だったら、こんなの耐えられない。でも……
そう思えたのは、何でなんだろう。
手が振り上げられたのを見て、
ぎゅっと目を瞑った時 ────…
そう言う“彼”の鋭い視線に、目の前にいるチンピラ男子が震えている事に気づく。
視線を私に移した“彼”の表情は、少し微笑んでいるように見えた。
私はそのまま抱き上げられ、旧校舎から外へ出る。
既に日は沈み、辺りは暗くなり始めていた。
言葉はそっけないけど、触れているところから伝わってくる体温が暖かくて、“彼”の優しさに包まれているみたいだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!