第11話

伝わる体温
75
2022/06/21 06:33
蒼井 空
蒼井 空
(そうだ…私、エレベーターの中で…)

私は、エレベーターの中で眠らされた事を思い出し、目の前にいる男子生徒に視線を戻した。
蒼井 空
蒼井 空
…どういうこと…? なんで、こんな…
男子生徒
……僕はただ、貴女をここに連れてくるように頼まれただけなので……
蒼井 空
蒼井 空
(頼まれた……?)

“誰に”そう尋ねようとした時、聞き覚えのある低い声が耳に届く。
チンピラ男子
よお
蒼井 空
蒼井 空
チンピラ男子
やっと起きたか
蒼井 空
蒼井 空
……あなた…朝の……
チンピラ男子
俺が、お前をここに連れてくるように
コイツに頼んだんだよ
男子生徒
…………

その男子生徒はただ黙って床を見つめている。
蒼井 空
蒼井 空
(……この人、もしかして……)
チンピラ男子
おい、お前はもう帰っていいぞ
男子生徒
はい

そう言われて去っていく男子生徒の姿が見えなくなった後、私は口を開いた。
蒼井 空
蒼井 空
それで、私に何の用?
チンピラ男子
決まってんだろ、朝の仕返しだよ
蒼井 空
蒼井 空
……そんな事の為にあの人を巻き込んだの……?
チンピラ男子
あ?
蒼井 空
蒼井 空
そうやって、自分に逆らえないような人
を無理やり従わせて楽しい?

睨みつけながら言うと、チンピラ男子は勢いよく私の顔の横に手をついた。
蒼井 空
蒼井 空
チンピラ男子
うるせぇよ
チンピラ男子
お前のせいで、むしゃくしゃしてんだ。
あの一ノ瀬ってやつにも目ぇつけられて
蒼井 空
蒼井 空
それは、自業自得でしょ
チンピラ男子
……お前さぁ……

今度は、手をついている方とは反対の手で私の顎を乱暴に掴む。
蒼井 空
蒼井 空
っ………
チンピラ男子
そんな口きいていいのかよ
蒼井 空
蒼井 空
…どういう意味…?
チンピラ男子
ここは、旧校舎の空き教室。
今は立ち入り禁止の場所で人なんかこないし、お前は拘束されてて逃げられない
チンピラ男子
お前がどんなに暴れて、泣き叫んでも、誰も助けに来ない
蒼井 空
蒼井 空
(……状況は最悪ってわけね……)

普通だったら、こんなの耐えられない。でも……
蒼井 空
蒼井 空
………来るよ
チンピラ男子
はぁ? 頭おかしいのか?
来るわけねぇだろ、こんなところに
蒼井 空
蒼井 空
絶対に来る……!

そう思えたのは、何でなんだろう。
チンピラ男子
っ……そろそろ、黙れ……!
蒼井 空
蒼井 空
………!

手が振り上げられたのを見て、
ぎゅっと目を瞑った時 ────…
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
おい
チンピラ男子
蒼井 空
蒼井 空
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
何してんだよ
蒼井 空
蒼井 空
(……本当に…来てくれた……)
チンピラ男子
なっ…?!……なんで、ここに……っ
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
聞こえなかったのか?
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
何してんだ、って聞いてんだよ

そう言う“彼”の鋭い視線に、目の前にいるチンピラ男子が震えている事に気づく。
蒼井 空
蒼井 空
(…そういえば、朝も…
何でこんなに怯えてるんだろう…)
チンピラ男子
い、いや……これは……その……
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
朝は見逃してやったけど、
2度目はないからな
チンピラ男子
くっ……
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
お前の処分については、
後でじっくりと決めさせてもらう
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
それと……

視線を私に移した“彼”の表情は、少し微笑んでいるように見えた。
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
そいつも、返してもらうから

私はそのまま抱き上げられ、旧校舎から外へ出る。

既に日は沈み、辺りは暗くなり始めていた。
蒼井 空
蒼井 空
…あの…そろそろ、自分で歩くよ
蒼井 空
蒼井 空
拘束こ  れを解いてくれれば歩けるし…
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
…………
蒼井 空
蒼井 空
……ねぇ……
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
もう、強がんなくていいから
蒼井 空
蒼井 空
え……?
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
まだ震えてる。 怖かったんだろ?
蒼井 空
蒼井 空
(……気づいてたんだ……)
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
生憎、拘束そ  れを解く道具も持ってねーし
このまま、大人しくしてろ

言葉はそっけないけど、触れているところから伝わってくる体温が暖かくて、“彼”の優しさに包まれているみたいだった。
蒼井 空
蒼井 空
………ありがとう、助けてくれて
一ノ瀬 律
一ノ瀬 律
………ん

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