とりすました顔で、自分のクラスに入る。
ちょうどお昼の時間だった。しかも今日は給食が休みなので、弁当の日だ。色とりどりの弁当箱が机の上にならんでいる。
いっせいに唯をふり向いたクラスメイトたちの視線より、その弁当の鮮やかさのほうが唯の胸に刺さった気がした。
純粋に明るい声に呼ばれて、唯はやっと体の力をぬいた。
唯を芸能人だとやっかみの視線で見たり、ごまをすってくることもなく、自然体で接してくれる数少ない友だちだった。
友だち──王子宇瑠の弁当箱、それに巾着もランチョンマットもどれもピンク系だ。
前はもっと地味なのを使っていた気がする。
唯は人気アイドルグループ『さくら道』に所属する、トップメンバーのひとりなのだ。
ファンからは「ゆいにゃん」と呼ばれていて、唯のグッズや応援するペンライトの色はピンクと決まっている。
少し気分をよくしながら、唯は自分の弁当を取りだした。
それでもやはり、巾着を開くときは気が重くなる。
自分の孤独をつきつけられるような、そんな気分になる。
唯の弁当は、みんなの弁当とはちがうからだ。
宇瑠はそう照れくさそうに言って卵焼きをほおばり、「コゲの味しかしない!」と苦笑いした。
心のどこかでほっとしながら、自分の弁当箱を開く。
豪華なのはとうぜんだ。これはきのうスタジオの楽屋で出された弁当を持ち帰り、朝そのままつめかえてきたものだ。
なにせ、唯には朝早起きをしてお弁当をつくってくれるような親がいない。
母親は唯が生まれてすぐに天国へ行って、父親は唯を置いてどこかへ消えた。
唯はそういう子どもたちが集まる施設で育ち、今は事務所が用意してくれた寮でひとり暮らしをしているのだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!