第12話

Stage3
3,338
2021/03/08 09:00
白雪 風真
白雪 風真
これがドルチェ部屋かぁ……
ドルチェによるささやかな握手会があった、その翌日。
都心からすこし離れた所にある、とあるマンションの一室に案内されて、風真は「おぉ」と感動の声をあげた。
新築ではないし、どこにでもあるような手狭な物件をちょっとリノベーションしたような部屋だった。
必要最低限の家具がすでに置かれているが、それもぜんぶ使い古した中古品。
それでもやはりうれしくて、風真はメンバーたちとともに目を輝かせた。
通称ドルチェ部屋の名前のとおり、ここは自分たちに与えられたミーティングルームなのだ。
マネージャー
いいかい、これからはここで打ち合わせや講習をしたり、防音室を使ってボイトレをしたりするからね。あと一階にあるダンススタジオはうちの元関係者が経営してるから、時間外の個人レッスンもお得に受けさせてもらえるから
マネージャーが説明しながら、中を案内する。
マネージャー
衣装はここ。体重計もあるから、こまめにチェックして管理すること。あと合鍵は渡すけど、遅くまでレッスンをしたりとかで泊まりに使う場合は、必ず事前に親と事務所の許可を取ること。いいね?
「「「「「はい!」」」」」
それから細かい説明をいくつかすると、マネージャーは帰って行った。
眠 桔平
眠 桔平
部屋までもらえるなんて、こんなに至れり尽くせりしてもらっていいんでしょうか……。僕たちまだまだひよっこなのに
桔平がおそるおそるソファに座ろうとして、やっぱり遠慮したように立ちつくす。
かわりにどっかと腰をおろしたのはギリシャだ。
豆井戸 亘利翔
豆井戸 亘利翔
あぁ? もっと胸を張れよ桔平、それだけオレっちたちが期待されてるってことだべ
塔上 沙良
塔上 沙良
なに甘いこと言ってるの。この下のダンススタジオは元関係者だとか言ってたでしょ。ここのオーナーだってそうなんじゃない? 大人の事情ってやつだよ、うまくお金がまわるようになってる
豆井戸 亘利翔
豆井戸 亘利翔
冷めてんな~沙良は。っつーかそんならよけい遠慮すっことねーじゃん、ガハハハハ!
白雪 風真
白雪 風真
あのさ、さっそくだけどちょっと防音室使ってボイトレしてていいか?
風真は防音室をのぞきながら、みんなに声をかけた。
白雪 風真
白雪 風真
ダンスのレッスンまで時間あるし、俺もっとこうさ、歌の語尾が安定できるようにしておきたいんだよな
眠 桔平
眠 桔平
あ……風真くん、もしよかったらでいいんですけど、僕もいっしょにボイトレさせてもらってもいいですか?
おずおずと桔平がきいてくる。
眠 桔平
眠 桔平
きのう、握手会のあとで『さくら道』のライブにすこしだけ顔を出させてもらったじゃないですか。あのとき聞いた生歌、やっぱりすごいなぁって感動しちゃって……
白雪 風真
白雪 風真
ああ、わかるわかる。俺もスゲーなって思った
さくら道はおなじ事務所……といっても、ドルチェはあくまでもエッグレコード付属会社所属という立場なのだが、その縁で顔を合わせることが多い。
彼女たちはパフォーマンスも歌声もハイクラスで、今ぐんぐんと人気がのびているアイドルグループだ。
眠 桔平
眠 桔平
やっぱり生歌であそこまですごいなって思うのって、基礎がしっかりしているからだと思うんです。僕なんて、これまでボイトレスクールに通ったこともなかったですし……
白雪 風真
白雪 風真
そんなの桔平だけじゃない。だから自主トレするんだろ。──ほら、いっしょにやろうぜ!
灰賀 一騎
灰賀 一騎
風真、オレもやるよ!
豆井戸 亘利翔
豆井戸 亘利翔
どーれじゃあオレっちもやるとすっかぁ!
風真が桔平の手をひくと、一騎とギリシャも手をあげた。
沙良は……と思って見れば、すでに部屋のすみっこでアイマスクをつけて眠っている。
ちょっとイラッとしたが、芸能一家で生まれ育った沙良はきっと、ボイトレなんて小さい頃からしっかりと受けているのだろう。
今わざわざ自主トレなんてしなくてもいいのかもしれない。

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