第12話
Stage3
ドルチェによるささやかな握手会があった、その翌日。
都心からすこし離れた所にある、とあるマンションの一室に案内されて、風真は「おぉ」と感動の声をあげた。
新築ではないし、どこにでもあるような手狭な物件をちょっとリノベーションしたような部屋だった。
必要最低限の家具がすでに置かれているが、それもぜんぶ使い古した中古品。
それでもやはりうれしくて、風真はメンバーたちとともに目を輝かせた。
通称ドルチェ部屋の名前のとおり、ここは自分たちに与えられたミーティングルームなのだ。
マネージャーが説明しながら、中を案内する。
「「「「「はい!」」」」」
それから細かい説明をいくつかすると、マネージャーは帰って行った。
桔平がおそるおそるソファに座ろうとして、やっぱり遠慮したように立ちつくす。
かわりにどっかと腰をおろしたのはギリシャだ。
風真は防音室をのぞきながら、みんなに声をかけた。
おずおずと桔平がきいてくる。
さくら道はおなじ事務所……といっても、ドルチェはあくまでもエッグレコード付属会社所属という立場なのだが、その縁で顔を合わせることが多い。
彼女たちはパフォーマンスも歌声もハイクラスで、今ぐんぐんと人気がのびているアイドルグループだ。
風真が桔平の手をひくと、一騎とギリシャも手をあげた。
沙良は……と思って見れば、すでに部屋のすみっこでアイマスクをつけて眠っている。
ちょっとイラッとしたが、芸能一家で生まれ育った沙良はきっと、ボイトレなんて小さい頃からしっかりと受けているのだろう。
今わざわざ自主トレなんてしなくてもいいのかもしれない。