ギリシャに言われて、風真はすこし困った。
たしかに、有栖川唯は事務所や仕事で顔を合わせるたびに、冷たい態度をとる。
それも風真に対してだけ、だ。
他のメンバーにはきちんとあいさつをしてくれるし、ムシしたり睨んだりといった態度もとっていないのに。
一騎も考えこむように首をひねる。
風真も腕を組んでいろいろ思い返してみたが、やっぱり心あたりはまったく無い。
心配そうに一騎が顔をのぞきこんでくる。
大丈夫だと風真は笑って、三人を防音室に引っぱりこむ。
一騎はまだどこか心配そうな顔をしているけれど、強がりではなく本当に平気なのだ。
心のなかで、これまでの有栖川唯の態度を思い出す。
たしかに唯は風真に対して塩対応だし、あからさまな無視もする。ギラギラとした敵意を向けられることもあった。
それに対してはじめは戸惑ったし、正直、ちょっぴり傷ついたりもした。
でも、ふと気がついたのだ。
唯が風真に対して冷たい態度をとったあと、ひそかに、ちょっとだけ、後悔したような顔をすることに。
たぶん唯は、自分の態度がほめられたものではないと自覚している。
そして、そういう態度をとっていることに、罪悪感も感じているのだ。
本当に根っから性格の悪いイヤなやつというのは、ああいう顔なんてしないと風真は思う。
今度会ったら、「おなじ事務所だしおなじピンク担当なんだし、仲よくしよう」とでも言ってみようか?
なんて、そんなことを思った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。