今日のこの話はおしまい。
またあしたね?さようなら。
夕焼けに染まる、町はずれのカフェには、不定期にお話をしてくれるお姉さんが来てくれる。
子供達には人気があって、大人たちには嫌われてた。だけど、私は、不安になったときに度々、お話を聞きに行っていた。
あら、今日も来たのね?
どうしたの?
優しい声、笑顔、香り。
親に嫌われていること、酷い事をさせられていること、もう生きるのが嫌になったこと。
たくさんこの人には話した。ほかの大人には言えないようなことを沢山。
ねぇ、貴方は、人肉を食べなきゃ生きていけない人を知ってる?
今日の話に出てきた、人肉依存症になった人のことだろうか。私はあの話を初めて聞いたし、そんな人はきっといないのだろうと思っていた。
だけど、その話をするこの人の瞳は、なんだか悲しげで、見ていられなくなった。
その子はね、自分からそういう体になったわけじゃないの。
悪い大人が、そういう風に改造したの。
私は俯いた。そして、黙って話を聞き続けた。
貴方は、私がもともと人肉を食べなきゃいけない存在だったとしたら、どうする?
軽蔑して、私を倒す?
そんなことは出来ない!と声を荒げた。
この人は他人だというのに私の事情を真摯に、聞いてくれたのに、恩をあだでは返せない。
でもね、実際はみんな、私をきっと倒すわ。
だって、それが一番幸せになるための方法だもの。
でも、この人がいなくなってしまったら、私の幸せ無くなってしまう。全部が、つまらなくなって、いつも来てくれる子供たちだって…
だけど、この人を倒そうとする大人の人をきっと、私は、止めることは出来ない。
それでいいの。
貴方は、親と一度話し合ってみるべきよ。
大丈夫、貴方のことを受け入れてくれるわ…
優しい、この人は此処にいてはいけないほどに優しい。
私は、現実から逃げるのを止めようと思う。ちゃんと向き合って、この人にちゃんとしたお礼を言わなきゃいけない。
私は家路を急いだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。