私は、嘘つきが大嫌い。
だから、約束を守ってくれなかった、あの人を、××した。
ちゃんと、優しく、ゆっくり、静かに。
今までの、感謝の気持ちをたっぷり込めて。優しく、優しく。じっくり時間をかけて。
あの人のタンスには、たくさんのお金が入っていた。これだけあればきっと、タクシーも、情報も、たくさん集められる。
時間だけが過ぎていった。あの人は、先延ばしをするばかりで肝心なことは一つも教えてくれなかった。そんなあの人が信じられなくなって、大嫌いになった。
いつも私に向ける温かい笑顔さえも、私は吐き気に催されるくらいの、嫌悪感を覚えた。
ごめんなさい。私が悪いことくらい、自分でも分かってるつもり。あの人に会うためだけに自分勝手なことばかりしていることも分かっていた。
だけど、私はあの人を追いかけていないと、気が狂いそうになる。
ふつうの女の子になれない、私が一番、大嫌い。
「もう行かなくちゃ、ごめんなさい、おじいさん」
私は、何を犠牲にしてでも、あの人を見つけて幸せにならなくちゃいけなかった。どんなにこれがいけないことかなんてわかってるだけど、だけど、私は、
私は普通の女の子。
私は、また一人で街を歩いていた。あの時みたいに、寒いなんてことはなかったけれど、最近警察が増えたように感じていた。
警察が持っている、紙には、私の顔とあのおじいさんの顔があった。
街を歩く大人たちは、××した、とか、×××とか。怖いことばっかり言っていた。別に、自分たちは被害にあっていないんだから関係なく、他人事のように過ごせばいいのに。と、どこか傍観者のように見ていた。
つくづく、そんな話をして怖がる大人たちが、可哀そうに思えた。
最近は、公園にいるおじさんたちと仲良くなった。ニコニコと笑ってくれた。おじさんたちはお互いを信用してないって言っていたけど、私のことは信用していてくれたみたいだった。
私が寝るところに困っていたら、寝るところを用意してくれたし、食べ物に困っていたら、お金と引き換えに、買ってきてくれた。
私は、おじさんたちを信じた。笑顔で私をあったかく迎えてくれて、嘘をつかないおじさんたちを信じた。
私が、探しているあの人のことを話すと、快く、探してくれた。
だけど、どれだけ探しても、あの人には会えなかった。何回も、何回も探してもらったのに。
でも、おじさんたちは、いつでも頼ってくれと言ったくれた。
その一言だけに私は、とても、泣きそうになった。
産まれてからずっと一人だった、目が覚めてからずっと一人だった、大切な人ができても、すぐにいなくなった。
だけど、おじさんたちはいなくならない気がした。ずっと、ずっと。そばにいてくれる。ずっと、私を支えてくれる。
それだけで、私はまだまだ、進んでいける気がした。
だけど、それは徐々に、現実が突き付けられるようになっていった。どうせこのまま探しても、見つかる気がしなかった。
おじさんたち、しばらくの間、さようなら。
冷たい、夜に。私はたくさんのお金を置いて、公園を去った。
また私は、独りぼっちになった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。