第2話

chapterⅠ 手
55
2021/02/20 01:56
 朝だ。
 
 嫌になるくらいに輝いている朝日の光を、カーテンで遮る。そうすると、部屋が真っ暗になる。

 下の階から、催促するような壁を叩く音が聞こえる。


「いま、いくの」


 小さくか細い声が、乾いてカラカラな喉を通る。
 

下に降りれば、偉そうに座っている社長さんがいた。

 空っぽになっているコーヒーのカップを乱暴に置く。中に少しはいっていた、コーヒーの飛沫が飛んでまた怪訝な顔をする。

 黙って、コーヒーのサーバーに手をかけて、入れようとする。

 すると、けたましい機械音がして、次には、コーヒーが辺りを汚した。

それを見た社長さんは、顔を真っ赤にして、私の髪の毛を引っ張るの。


「使えないゴミが!!」


「こんな事もできないのね?」


 その罵詈騒言をさんざん浴びせられた後に、派手なメイクをした女のに人たちに、連れていかれる。においがきつい香水を浴びせられて、チクチクする洋服を着せられて。髪の毛は、固い液で固めて、重い宝石を着けられて。

 輝く舞台に出される。

 目がチカチカした。輝くミラーボウルの色は、濃いマゼンタのような色。客たちは、一人一人の女の子を品定めするかのように、見つめている。
 その目は、欲情した獣だ。
 
そして何よりも、泣き叫ぶ少女たちを見て楽しむだけの、変態。

 その目が大嫌いだ。
今日も私は買われなかった。

 最初は私は狂ったように泣き叫んだ。だけど今となっては逆に、泣く方法を教えてほしい、ただ願う。いつか私が泣けるような相手に巡り合うことを。恐怖で顔を歪ませるほどの人に会いたい。

 相手が殺人鬼なのであれば、どんな殺し方をしてくれるのだろう。
 
 相手が狂人なのであれば、どんな狂った姿を見せてくれる?

 …相手が裏社会を生きる人ならば?

想像力は、使っても使っても消えないのだから、生きているうちに使い果たしてしまえばいいのだ。

 死んだときに、後悔するというのが一番無駄。

そんなとこを思いながら、曇りなき夜空に浮かぶ月を見上げる。

 綺麗事を言えば、深い青に浮かぶ金色の月、だが、現実は孤独に一人浮かぶ月なのだ。周りには、数えきれないほどの星が眩しく輝いているのに。月だけは独りぼっち。
 昔見た絵本にかいってあったのは、月はいつも私たちを見守っているってこと。ニコニコと、優しい笑顔で。
 本当に見たわけでもないのに、あの頃も私はがむしゃらにそれを信じいた。

 でも、今じゃその絵本を読んでくれていた、親の顔すら思い出せない。

 あの、狂おしいくらいに愛しくて、頭をぐちゃぐちゃにして殺したいくら憎んでいる親の顔を。


 私はずっと思い出せない。

プリ小説オーディオドラマ