ポツポツポツ…
冷たい雨が、頬を滑る。
冷たくて、冷たくて。心地よくて。
雨のせいで濡れた手が、水滴まみれで気持ちが悪い。だけど今は、やらなきゃいけないことがある。倉庫に立てかけてあるスコップを取り出した。
ザク…ザクザク…
雨で柔らかくなった土、スコップを刺せば形を安易に変える。
その中に、動かなくなった人形を埋める。
ちゃんと、貴方が大好きって言ってたあのお花も埋めておく。
「これでさみしくないでしょう?」
誰に言うつもりもない、独り言が乾いた喉を通る。
最期は、お別れは、笑顔でっていうつもりだったのに。何でか、だんだん息が荒くなっていく。苦しい。周りは、誰もいない。居るはずがない。
居ない場所をわざわざ選んだのだから。
「あ、あぁ。ああ…」
耳鳴りがする、頭痛がする。
ぬかるんだ土に足を取られる。尻もちをついて、倒れてしまう。だけどそんなこと関係なかった。怪我をしたわけじゃない、なのに、手が土の色が混ざった赤色。
私は悪くない。
ねぇ?そうでしょう?
土に埋まっている、人形に視線を投げかける。
だが、すぐにやめて、走ってその場を後にする。怖い。今はこの状態を見られるのが一番怖い。雨が体中を刺しているような感覚がある。
あの忘れもしない夜に、私は、人を刺して、
生きたまま埋めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。