体育祭は嵐のように過ぎ去った。
総合優勝は逃したものの、準優勝を勝ち取り、来年は絶対優勝しよう!ってクラスみんなで盛り上がったりして。
もちろん、私は体育祭実行委員としての役目も果たして伊藤先輩とのペアも解消。
……の、はずなんだけど。
もう接点すらなくなると思っていた伊藤先輩が、なぜか何かと理由を付けては私を訪ねてくるようになった。
癖なの?ってくらい、慣れた手つきで私の頭を撫でながら柔らかい笑顔だけ残して去っていく伊藤先輩を見送る。
……いつからだろう?気づけば伊藤先輩は私を"雫"と、サラッと下の名前で呼ぶようになった。
あの伊藤先輩が私を好きなんて、夢物語すぎて笑っちゃうよ。
ちょっと体育祭で仲良くなれただけ。
それ以上も以下もないのに。
冗談半分のちかちゃんの言葉に、森田は少しだけ面倒くさそうに答える。
"別に俺のじゃねーし"
分かってはいても、内心ショックだな。
いつも冷やかされてばっかりだから、たまには仕返しと言わんばかりにちかちゃんとみのっちをニヤニヤと見つめる。
ちかちゃんの返事に"マジで?"と嬉しそうに笑うみのっちは、本当にちかちゃんが好きなんだろうな。
対するちかちゃんも、見たことないくらい顔を真っ赤にして、すごく女の子な顔してる。
この2人には、早く幸せになって欲しいな。
【カフェ】
放課後、生徒玄関で私を待っていた伊藤先輩に誘われて近所のオシャレなカフェに来た私は、先輩と向かい合わせに座っている。
先輩の真剣な瞳に射抜かれて、目がそらせない。ドキドキと加速していく心臓は、正直で。先輩の気持ちを嬉しいと思っている自分がいる。
ふと、脳裏をよぎる森田の顔。
……私のことなんか、これっぽっちも好きじゃない森田より、伊藤先輩をまた好きになれたら幸せなのかもしれない。
そんなことを思いながら、真っ直ぐに先輩を見つめ返した───。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。