あんなにも『早く冬休みになれ〜』って願っていたはずなのに。
いざ冬休みになってしまったら、それはそれで寂しいような気がしてくるんだから不思議だ。
それもこれも全部、
誕生日という年に一度の大イベントが冬休み中にあるのが悪いと思うんだ。
唯一の救世主ちかちゃんは昨日から絶賛、家族旅行中だし。
せっかくクリスマスはみんなとワイワイしたばかりなのに、誕生日に1人なんてツイてないな〜なんて、
もう一度深くため息をついてベッドに勢いよく横たわった瞬間。
突然、手に持ったままだったスマホが震えて慌てて飛び跳ねる。ディスプレイを確認すればそこには"森田"の文字。
ちかちゃんてば、そんなことを言ってくれてたなんて知らなかった。……いつの間に!
【数時間後】
いつも通りカラオケやゲーセンで遊ぶんだとばかり思っていたのに、森田が連れてってくれたのは最近できたばかりの水族館で。
ペンギンのエサやりや、イルカショーを満喫して、お昼は人気のイタリアンカフェでパスタを食べた。
───そして。
森田と二人で、なぜか新年一発目の初詣にやって来た。
そう言って唇を突き出す森田に、思わず笑ってしまう。可愛いところもあるじゃん。
今日は森田の良いところをいっぱい見つけた。
つい最近まで彼女がいただけあって、今日はずっと森田がリードしてくれていて、さりげなくお昼ご飯は奢ってもらっちゃったし。
お店も先回ってリサーチしてくれたんだろうなって思ったら嬉しかったし。
なんだかまるで、本当のデートみたいな時間を過ごせて、心の底から楽しかった。
"俺なりに頑張ったんだわ"
そう言ってフッと笑った森田に、一瞬キュンと胸が軋む。
……って!何よ、キュンて!
いくら失恋したばっかりだからって、森田相手にときめいてどうする、私。
もう。
やっぱり森田はムードの欠片もない。
いや、森田との間にムードなんてものがあっても困るんだけど。
……だけど、こうして森田に祝ってもらえた16歳の誕生日。間違いなく、私にとっては忘れられない1日になったよ。
ありがとう───。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。