さっきまで、何だかんだ重たかった足が、ちかちゃんのおかげで軽くなったように感じる。
……森田と、もう1回ちゃんと向き合おう。
1度振られちゃったけど、それを理由に私は頑張ることすらしなかった。
もっと、森田に好きになってもらえるように頑張るチャンスが欲しい。
なんて考えていた私の手元で、さっきまでちかちゃんと繋がっていたスマホが震えた。
タイミング良くかかってきた森田からの電話。
胸がドキドキして、応答ボタンをスライドする指が震える。
電話口から聞こえる、やけに焦った森田の声に何かあったのかと心配になってくる。
やけに一方的な電話は、プツッとそのまま切れて、虚しい機械音が聞こえる。
何が何だか分かんないけど、今から森田に会える。
そう思うと嬉しくなってくる。
……早く会いたい。
そんな感情が自分の中からどんどん湧いてくることに驚きながらも、気づけば、私は今来た道を走って戻っていた。
【北口改札】
人混みの中、見つけた森田の姿にホッとする。
……なんでこうも、森田がいると安心するんだろう。
ザワつく駅の改札。
たくさんの人に、たくさんの音。
そんな中聞こえたのは、あまりにも私に都合のいい言葉で、数秒フリーズした後、そんなはずないと聞き返した。
あまりに真っ直ぐに向けられた言葉に、戸惑いが隠せない。恥ずかしさに耐えかねて、このまま笑い飛ばしてしまおうと思った。
……変な冗談、やめてよって。
じゃないと、期待してしまうから。
だけど───。
私の目の前には、照れくさそうな、だけど真剣な。上手く言葉を探せずに、空回りしながらも私に何かを伝えようとしてくれている森田がいる。
あぁ……夢なら、どうか醒めないで欲しい。
そんなこと、本気で思った。
その場にしゃがみこんでしまった森田が、視線だけで私を見上げる。
不安そうに瞳を揺らして私の返事を待つ森田。
……だから、電話もあんなに慌ててたんだ。
相変わらず、たくさんの人が行き交う。
だけど、私と森田を気に留める人なんて誰もいない。
ううん、もし仮にいたとしても───。
人目なんて気にならないくらい、今すっっごく幸せなんだもん。
笑って泣いて、時には喧嘩して。
仲直りの度に深まる絆を大事にして。
たまにはお互い素直に気持ち伝え合おう。
───これからもずっと隣にいてね、紘。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!