このところ、学校中至るところで話題になっているのは3日後にひかえた"バレンタイン"について。
好きな人がいる子や、彼氏がいる子は、決まって『カレにあげたい本命チョコ2020』なんて雑誌を広げて色めきたっている。
あげる相手がいない私と、くれる相手がいない森田はその光景を死んだような目で見つめるだけ。
みのっちの突然の爆弾発言に、ビックリしたのは私だけじゃないらしい。
目の前で、幽霊でも見たのか?ってくらい目を見開いて、おまけに手の平で口をおおった森田。
ちょっとオーバーな気もするけど、気持ちはすごくよく分かる。
今まで関心なさそうに黙って聞いているだけだったちかちゃんは、突然の自分の名前に心底驚いたって顔で声を張り上げた。
逆に、驚きすぎたのか、私と森田は口をパクパクするばかりで言葉を発することが出来ない。
サラッと放たれたみのっちの言葉。
いつもどこか冷めてて、恋なんて興味ないって顔してるちかちゃんの横顔は、不意をつかれたせいか、ほんのり赤く染まっていた。
【雫の部屋】
放課後、つい勢いで買ってしまった『カレにあげたい本命チョコ2020』を眺めながら、ため息をひとつ。
森田にあげるために、こんな本を買ったと思うと急に恥ずかしくて、おまけにアホらしくなってくるのはなんでだろう。
言い訳みたいな言葉を並べて、独り言を漏らす私は傍から見たら完全にヤバいやつ。
だけど、
森田の喜ぶ顔を想像すると、自然と頬がほころんでしまう。
───ピコンッ
そんな私に届いたメッセージ。
確認すれば、そこにはちかちゃんから【みのっちに、バレンタインあげようと思う(義理)】とだけ表示されていた。
【私も森田にあげようかな(友チョコ)】
それだけ返信して、再び雑誌へと視線を落とす。
よーし!森田に私が作ったガトーショコラ、ぜーったい"美味しい"って言わせてやるんだから。
覚悟しててね、森田。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。