第11話

ぎこちない距離
───春。

桜の花がヒラヒラ舞って、新学期の訪れを告げている。
松本 雫
松本 雫
あっ!
ちかちゃん、同じクラスー!
中村 千香子
中村 千香子
ほんとだ!やったね!
私たちは、晴れて2年生になった。

クラス発表で賑わう生徒たちの群れに紛れて、ちかちゃんと同じクラスになれた喜びを噛み締める。
渡辺 稔
渡辺 稔
ってことで、俺も同じクラスね
中村 千香子
中村 千香子
……う、嘘!
みのっちも同じクラス!?
松本 雫
松本 雫
すごーい!
みんな一緒だ!
渡辺 稔
渡辺 稔
んー?
中村は俺と同じクラスってのが
そんなに嬉しいんだ?
中村 千香子
中村 千香子
……っ、はぁ?
別に違うから!!
中村 千香子
中村 千香子
私は雫がいればそれでいいし
新学期を迎えても、やっぱりちかちゃんとみのっちは相変わらずだな。

見てて微笑ましいよ。
渡辺 稔
渡辺 稔
あー、あと。
紘も同じクラスだったよ
───ドキッ
松本 雫
松本 雫
そっか。
……本当にみんな一緒だ
みんな一緒なんて、奇跡だし。
本当に嬉しいはずなのに。

森田とは、この際クラスが離れてくれたら良かったのに……って思ってしまう自分がいる。

と言うのも、森田に振られたあの日から、お互いに距離感を掴めずにいる。
渡辺 稔
渡辺 稔
おーい!紘、こっちこっち!
みんな同じクラスだぞ〜
森田 紘
森田 紘
おー!
すげぇ、みんな一緒か
森田は今まで通りイツメンだし。
もちろんお昼だって一緒に食べてる。
だけど、私と森田に会話はない。

私たちの間にだけ見えない大きな壁がある。
そんな感じ───。
【海辺】
今日はクラスの親睦会。
近くの海に集まって海辺でみんなでカレー作りをすることに。
中村 千香子
中村 千香子
じゃあ、2人はこれよろしく!
松本 雫
松本 雫
2人って……森田と?
何班かに分かれて行うカレー作り。
火をおこす班、野菜を切る班、お米を炊く班、人数分の大きな日除けテントを組み立てる班。

私たちはと言えば、イツメン4人にクラス委員の佐伯さえきさんと野球部のエース吉岡よしおかくんを加えた6人で野菜を切る班。

目の前にはちかちゃんが”これ”と指さした、大量のじゃがいもが並んでいる。
森田 紘
森田 紘
……了解
”森田と2人”という気まずさにオドオドする私を差し置いて、森田は早速、おぼつかない手つきでじゃがいもの皮剥きを始めた。

……うぅ、他の人とペアが良かった。
〜10分後〜
クラス全員分のじゃがいもなんて、そう簡単に剥き終わらない。終わるはずがない。

進捗はたったの5個。

あぁ、もう。
ピーラーがあればもっと早いのに。

チラリと森田を盗みみれば、森田は7個目を手に取ったところだった。

嘘……!私より早い……って、
松本 雫
松本 雫
いっ……たぁ
ズキッと痛みが走る指先。

得意じゃないくせによそ見なんてしたせいで、思いっきり指を切ってしまった。

……うぅ、最悪。

舐めときゃ治るってよく言うし、と血の出た指を口元に運ぼうとする私の手を、後ろから伸びて来た誰かの手が止めた。
森田 紘
森田 紘
ったく、ヘタクソ。
……来い、消毒するぞ
松本 雫
松本 雫
も、森田……?
そのまま、グイッと強く私の腕を引いて歩き出す森田に心臓がバクバクとうるさい。

……こんな時だって言うのに、森田が気付いてくれたことが嬉しくて、つい口元が緩む。
森田 紘
森田 紘
痛む?
松本 雫
松本 雫
……ううん、平気
歩きながら、私を気にかけて振り向いた森田にキュンと胸が高鳴った。

あぁ、やっぱり……森田が好きだな。