第16話

素直になれない
しばらく歩いた森田は、誰もいない水飲み場近くまでやって来るとやっと足を止めた。
松本 雫
松本 雫
……ちょっと、
急にどうしたの?
森田 紘
森田 紘
また、
松本 雫
松本 雫
また?
森田 紘
森田 紘
また、あんな女タラシのこと
好きになったのかよ
松本 雫
松本 雫
……はぁ?
呆れたような声を出して、掴んでいた私の手を離した森田に、ムッとする。
松本 雫
松本 雫
仮にそうだとしても
森田には関係ないでしょ?
森田 紘
森田 紘
……っ、
私が好きなのは、今も変わらず森田なのに。
森田にしてみれば、私からの告白なんて『またいつものやつか』くらいにしか思われてなかったのかもしれない。

簡単に恋に落ちて、失恋して、その度すぐに好きな人ができる。

それを、森田はいつもそばで見てたから。
松本 雫
松本 雫
森田こそ!
結局、元カノとはどうなったわけ?
ずっと聞きたくて、だけど聞く勇気が出ないまま。

森田は私を気にしてか、あれから特別この話をすることはなかったし。

私としても、変に気にしてるって思われるのが嫌でそのままにしていた疑問を、ここに来てやっと森田にぶつけた。
森田 紘
森田 紘
俺のことはいいんだよ
松本 雫
松本 雫
なによ……それ!
超、理不尽
私のことは聞いてくるくせに、自分のことは話さないなんてフェアじゃない。
森田 紘
森田 紘
あ〜ったく!
モヤモヤする!!
松本 雫
松本 雫
……っ!?
急に大きな声を出す森田。

独り言のように吐き出された森田の言葉が、何に対するものなのか分からなくて、ただ森田を黙って見つめるしかない私。
森田 紘
森田 紘
とにかく!
あんな女タラシはやめとけ!
何か悩んでいるみたいな顔しながら、森田は早口にそれだけ言うと、私へと視線を向ける。

何か言い返そうと開きかけた口は、絡み合う視線に勢いをなくす。
松本 雫
松本 雫
……なんで森田にそんなこと
言われなきゃいけないのよ
素直になれないのはいつだって森田のせい。

そもそも、私の好きな人は森田だし!
それなのに……。

何が"あんな女タラシはやめとけ"だ。
一体全体、どの口がそんなことを?

私のことなんて好きになってくれないくせに、私の恋愛に干渉するなんて100年早いっつーの!
森田 紘
森田 紘
俺は心配してんだよ!
もちろん……友達として
森田 紘
森田 紘
もしまた、松本がアイツのことで
泣くようなことがあったら……
松本 雫
松本 雫
あのね!勘違いしないで?
別に私、先輩のことは
もうなんとも思ってない
松本 雫
松本 雫
だから、泣くこともなければ
森田が心配するようなことも
まーったくない!
森田 紘
森田 紘
……本当かよ
松本 雫
松本 雫
もし仮に先輩のことで
泣くようなことになっても
森田には迷惑かけないよ
"それでいいでしょ?"

なんて、可愛げのない言葉を投げつけて、フンッとそっぽ向いた。

もっと森田に対して可愛くしたいって思ってる自分と、森田のことを諦めるためにも、友達として今まで通りでいなきゃって思ってる自分がいる。
中村 千香子
中村 千香子
あー!雫ってば
こんなとこにいた!
松本 雫
松本 雫
あ、ちかちゃん!
中村 千香子
中村 千香子
次、私たちの種目なのに
雫どこにもいないんだもん!
探したんだから〜
松本 雫
松本 雫
嘘、もう?
ごめんごめん!
……戻ろう、森田!
森田 紘
森田 紘
……おう
私と森田を見つけて、駆け寄ってくるちかちゃんに返事を返して、

まだ納得のいかなそうな森田と並んで歩き出す。

……早くこの"好き"が私の中から消えてなくなっちゃえばいいのに。