しばらく歩いた森田は、誰もいない水飲み場近くまでやって来るとやっと足を止めた。
呆れたような声を出して、掴んでいた私の手を離した森田に、ムッとする。
私が好きなのは、今も変わらず森田なのに。
森田にしてみれば、私からの告白なんて『またいつものやつか』くらいにしか思われてなかったのかもしれない。
簡単に恋に落ちて、失恋して、その度すぐに好きな人ができる。
それを、森田はいつもそばで見てたから。
ずっと聞きたくて、だけど聞く勇気が出ないまま。
森田は私を気にしてか、あれから特別この話をすることはなかったし。
私としても、変に気にしてるって思われるのが嫌でそのままにしていた疑問を、ここに来てやっと森田にぶつけた。
私のことは聞いてくるくせに、自分のことは話さないなんてフェアじゃない。
急に大きな声を出す森田。
独り言のように吐き出された森田の言葉が、何に対するものなのか分からなくて、ただ森田を黙って見つめるしかない私。
何か悩んでいるみたいな顔しながら、森田は早口にそれだけ言うと、私へと視線を向ける。
何か言い返そうと開きかけた口は、絡み合う視線に勢いをなくす。
素直になれないのはいつだって森田のせい。
そもそも、私の好きな人は森田だし!
それなのに……。
何が"あんな女タラシはやめとけ"だ。
一体全体、どの口がそんなことを?
私のことなんて好きになってくれないくせに、私の恋愛に干渉するなんて100年早いっつーの!
"それでいいでしょ?"
なんて、可愛げのない言葉を投げつけて、フンッとそっぽ向いた。
もっと森田に対して可愛くしたいって思ってる自分と、森田のことを諦めるためにも、友達として今まで通りでいなきゃって思ってる自分がいる。
私と森田を見つけて、駆け寄ってくるちかちゃんに返事を返して、
まだ納得のいかなそうな森田と並んで歩き出す。
……早くこの"好き"が私の中から消えてなくなっちゃえばいいのに。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!