いつものファミレス。
いつものレモンスカッシュ。
足りないのは、いつもなら向かいの席にいるはずの松本。
中村と稔の言葉には、内心心当たりがありまくる。
放課後、先輩に誘われて呑気に"また明日"と帰って行った松本の後ろ姿を思い出すと、胸の辺りが苦しくなる。
ずっと頭ん中がイライラ、モヤモヤしてる。
その理由を考えれば、辿り着くのは松本の存在で。
だけど、松本に対してイライラしてんのかと言われたらまた別で。
好きなやつコロコロ変わって、すぐ失恋して、なのにいつも楽しそうで。
俺とは喧嘩ばっかなのに、何だかんだ一緒にいるのが当たり前で。……かと思えば、俺のこと好きと言い出したり、友達に戻りたいって言ってみたり……。
振り回されっぱなしで、乱されまくりで。
だけど、離れてると気になって。
目で追って、心配して、側に置いておきたいって思う。俺の目の届くとこに、いて欲しいって……。
……伊藤先輩。
女タラシだから、松本に近づかれると腹が立つんだと思ってた。
また泣かされたらって思うと、心配だったし。馴れ馴れしく触られてんのも、ムカついた。
……サラッと下の名前で呼んでるし。
俺だって、呼んだことねぇのに。
伊藤先輩に感じるイライラと、頭の中のモヤモヤは全部、嫉妬ってことか……。
他の男と一緒にいんのを見るのが嫌だって思うのは、俺が松本を好きだから。
なんだ、そっか。
俺、松本が好きなんだ。
"松本のことは、大事な友達だと思ってるから"とかカッコつけたこと言って、振ったよな。
───ドクンッ
中村の言葉に心臓が嫌な音を立てる。
やっと、自分の気持ちに素直になれそうだってのに、他の男なんかに取られてたまるか。
……それに、勝手だけど。
松本が好きなのは、まだ俺だって信じたい。
こうなったら、当たって砕けろだ!
勢いよく立ち上がって、テーブルの上に千円札を叩きつけた。
背中を押してくれた2人の"頑張れ"を背中で聞きながら、俺の足は自然と急いでいた。
───早く、松本に会いたい。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!