第15話
不機嫌な森田
【体育祭 当日】
体育祭実行委員は、企画や運営がメインで、体育祭当日はあまり忙しくない。
と言うのも、整備美化委員が用具係を担当することになっているし、放送はもちろん放送委員。
写真や動画の撮影は広報委員がやってくれるし、来賓の接待は福祉委員の仕事だし……。
救護係はお決まりの保健委員。
競技の順位なんかの記録や採点は、図書委員が張り切っている。
キュルンと、この整った顔で見つめられると、ついうっかり「ダメじゃない」と言ってしまいそうになる。
……まぁ、でも確かにそうだよね。
他の子たちが先輩に"ダメ"って言えない気持ちはよく分かる。
現に私も言っちゃいそうになったし。
だけど、こうして過ごしてる今も私の中には森田がチラつくから。おかげで、先輩の甘い言葉に惑わされずにいられるのかもしれない。
……私ってば、本当に森田が好きなんだな。
森田への気持ちを改めて自覚して、思わず苦笑いが零れた。
フッと優しく笑って顔を覗き込まれると、"落としたい女の子"って言うのは自分なんじゃ……?なんて勘違いしてしまいそうになる。
こうして数々の女の子たちを落としてきたのかと、感心する反面、やっぱりあのまま先輩を好きでいても幸せになれなかっただろうな……って思ってしまった。
頭を優しく撫でながら、グッと距離を縮めてくる先輩に、思わず両手を前に出してバリアを張った。
そんなバリアも虚しく、その手を優しく掴まれたまま軽く引き寄せられて……。
───え、嘘、抱きしめられる!?
先輩に引き寄せられていたはずの体が、突然、反対側から強く腕を引かれたことによって、先輩から遠ざけられた。
一瞬、聞こえたのは森田の声。
だけど、その顔を確認するより早く、ずんずん歩き出した森田の背中に、何が何だか分からなくて。
私の呼び掛けにも森田は歩く足をとめない。
慌てて先輩を振り返れば、相変わらず優しい先輩の笑顔にホッとする。
でも、さっきのは何だったんだろう。
先輩に抱きしめられるのかと思った。
今の状況は何1つ理解できないけれど、1つだけ言える事があるとすれば。
私の手を引いて歩く森田が見たことないくらい、それはもう不機嫌だってこと───。