第19話

恋バナの記憶
101
2026/04/10 10:00 更新
「こういう時はアレだよねー」

「あれ?」


みんなで寝袋に潜り込んで、ランタンを中心に顔を突き合わせる。

紫苑は少しテンション高く言った。


「恋バナ」

「紫苑しか喋らないでしょ。解散」


今日も今日とて馨の紫苑に対するツッコミが鋭い。


「いやいや、あなたの下の名前にもネタがあるから」

「え?」

「彼氏いるでしょ。羅刹の先輩」


その言葉に、一気に私に視線が集まる。


「あなたの下の名前彼氏できたのか。おめでゴハッ」


テンション高く、ゆうゆうが血を吐く。

寝っ転がりながら吐いて平気なのか?

仰向けにはなっていないからまあ大丈夫かな。

その辺、ゆうゆう自身が一番把握してるだろうし。


「あー。まあ、いたよ。過去形だけど」

「え、別れたの?」

「うん。ちょっとよろしくないタイプの男性だった」


付き合った期間は…1ヶ月くらい?

長続きしてないけど、かといって短すぎるわけでもない…と思いたい。


「マジか、情報古かったな…」

「あなたの下の名前がよろしくないタイプって言うのは中々じゃないか」


ゆうゆうが意外そうな顔をした。


羅刹学園に入学して気がついたけど、どうやら私は懐が広いらしい。

思い返せば本気で怒ったことはなかった。

母さんが桃に殺された時は、怒りよりも後悔が強かったし。


同期と軽口を叩いて、ムッとした表情を見せることはある。

紫苑に腰に手を回されて離せって腕を引っ張ることはある。

にゃんに貧乳いじりされて脛を蹴ることはある。

でも、ちゃんと怒ったことは1度もなかったし、今回の件も怒ったというよりは見切りをつけただけ。


「そう。よろしくない人だったんだよ。別れた今はもう爆笑できるけど」


今はもう、そういう経験としか思わない。

それはそれとして、当時は紫苑と別ベクトルのクズで、個人的にそっち方面は相性が良くないんだな、とは思った。


「好きな人より好いてくれる人と付き合った方が幸せになるって言うでしょ?それにならって、何回も好きってアタックしてくれる先輩と付き合ってみることにしたわけ。そしたらさ、その先輩ゴリゴリに猫被ってたのよ」

「猫咲みたいに?」

「みたいに。どっちかって言うと、家の中と外じゃ態度が全然違う、みたいな感じだと思う」

「毎日のように俺を見てんのによくもまあ引っかかるな」

「私がにゃんの猫被りに気づいてなかったの覚えてるでしょ」


正直、にゃんが猫被っているって教えてもらうまで、本性が見え隠れしていたのを、怒ったら怖いタイプだと思っていたから、そういうの見抜くのは不得意なんだと思う。


「ほんと、すっごい他責思考でびっくりしちゃった。実習で上手くいかないことがあったら、彼女の私が前日にもっと応援してくれなかったから、とか。一緒に勉強したけどテストでいい点取れなかった時に、私の頭が馬鹿でずっと教えていたから、とか」

「うわ、」

「いや、実習あるってこと伝えられてないし、勉強むしろこっちが教えてたんだけど?私関係なくない?って言ったわけ。そしたらさ、彼女なんだからそれぐらい知っとけ、とか教え方が悪かったとか言い出してさ。
まあそういうことが積み重なって、無理だわこれってなって別れた」

「すぐ切って正解だよ」

「いつかきっと素敵な人が現れるさ」


慰めてくれるゆうゆう。

しかし、その後も私は押し切られる形で付き合った男性が悉く、お金を借りようとしてくる人だったり、何股もしているような人だったり、依存してくる人、監禁してこようとする人、暴力を振るってくる人などなど、よろしくないタイプの人だったので、男運のない女という称号を得るどころか。

女性と付き合ってみてもおんなじ感じだったので恋人運のない女に称号がアップグレードされるのだが。

そんなこと、この時の私は知らなかったのである。


「てか、押したらあなたの下の名前付き合ってくれるんだ。俺と付き合わない?」

「やだ。同期と付き合う気ないから」

「それ何度も言っているが、なんで同期とはダメなんだ?」


大我に疑問をぶつけられて、頭の中で整理してから口を開く。


「まず大前提としてね、私理由がないと断るの苦手なの。初めて紫苑と会ったときナンパされたけど、当時私付き合っている人もいなかったから、押されてたら多分付き合ってたと思う」

「マジか」


マジです。

大我が間に入ってくれなかったら、私紫苑と付き合っていたかも。


「でも今ダメなのは、紫苑の、同期の存在が私の中で大きくなったからなんだ。恋愛感情ってよくわかんないけど、多分それより上だから。恋人ってことは今よりも下になるってことで、それがイヤだから同期は無理」


うん、口に出してみるとしっくりきた。

多分私の中では恋人よりも同期が上なんだ。


「…え、なに。みんなどうしたの?」


顔を上げると、みんなが顔を両手で覆っていた。


「いや、なんか恥ずくなってきた」

「やっぱあなたの下の名前って僕たちのこと好きだよね」

「?当然じゃん」

プリ小説オーディオドラマ