この人は僕の姉さん。
優しくて綺麗で目を離せばすぐにどこかに消てしまいそうな儚げな人。名はミサキと言う。
姉さんは鋭い。
僕が隠し事や悩み事していると何もかもを見通して問いかけてくるんだ。
姉さんは優しい。優しすぎる。
嬉しい事があったら、
一緒になって喜んでくれる。
悲しい事があったら、
一緒になって悲しんだ後に笑い飛ばしてくれる。
そして……
人の悩みは一緒になって抱え込んでしまう。
そんな優しすぎる彼女に
僕の重すぎる悩みなんて打ち明けられない。
今日も僕はいつものように明るく振る舞うんだ。
だいたい予想は着いている。“ 今日の事 ” だろう。
やっぱり。
これから始まるゲームは、本当は僕一人でする予定だった。
でも、姉さんは何一つ聞いてくれなかった。あの時キッパリ断っていれば……なんて今更後悔しても遅いんだ。
この先、姉さんを悲しませてしまう、苦しませてしまう結果が待ち受けていると思う。
彼らはきっと何も変わっていない。
そんな事、本当は分かりきっているんだ。
母さんたちの仇を打つ。
それが今まで僕が生きてきた意味、理由。
目的が今僕の目の前にあるのだ。
もう誰にも僕を止められやしない。
緊張と興奮で頭がどうにかなりそうだった。
姉さんは僕を心配するかのように眉を下げてコチラを見つめる。
ダメだ、今更こんな事を言ってはいけないんだ。
僕は姉さんに微笑み返す。
そんな僕の肩を姉さんは掴み。
その言葉がグサリと心に突き刺さる。
僕の目から一粒の雫が零れ落ちる。
まるでどちらかが死んでしまうとでも言いたげな…
残酷な未来が見えた気がした。
自分の心臓の鼓動が徐々に早くなるのを感じる。嗚咽を必死に抑え、赤い目で姉さんを見つめる。
姉さんは儚げな視線で僕を見つめ続けるだけ。
そして、僕に向かって両手を広げ…
いつもの優しい笑顔で笑いかけてくれる。
僕は無我夢中で姉さんに駆け寄り、抱きつく。
大好きな姉さん……。
料理できたよと孤児のみんなに笑いかける姉さん。
みんなと遊び楽しそうに笑っている姉さん。
僕が楽しそうにしていると微笑んでくれる姉さん。
泣いている時、ギュッと抱きしめてくれる姉さん。
よからぬ事を考えていると叱ってくれる姉さん。
どんな時でも隣にいてくれる姉さん。
ずっと僕を信じ続けてくれる姉さん。
僕の事を強く抱きしめてくれる姉さん。
僕も姉さんの事をギュッと抱き返す。
フルフルと首を振る。
『大丈夫な訳ないだろ…!』
そう言いたかった。
でも僕は声も出なくて呼吸するのが精一杯だった。
そんな僕の背中を姉さんは優しく摩ってくれる。
僕は首を縦に動かす。
姉さんは僕の頭をよしよしと撫で。
僕は何も言えないまま、姉さんが部屋を後にする。
何をしているんだ僕は。
僕が決めた事なのに、
そんな事も貫けない自分に腹が立ってばかりだ。
優柔不断な自分を責める日々。
このままでいいのかと繰り返す自問自答。
話さなければいけない。
きっと大喜びで賛成してくれるんだろう。
でも……
あの日、両親の墓の前で誓った想いは?
アイツらが憎くて憎くてたまらないはずだろ?
僕の復讐は?
緊張と興奮で少し動揺しているだけだ。
大丈夫、僕は今までこのために生きてきたんだ。
大丈夫、大丈夫、大丈夫、だいじょうぶ……
________ 外伝2へ続く _______
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。