第67話

 On your mark(🍉🌱)
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2023/01/02 08:30




 きっ、緊張する 
 🍉 
 🍉 
 気にすることないよ
 大丈夫!練習通りやろう 



   文化祭なるものがやってきた .

   私のクラスの出し物は劇だったのだけれど
   王子と駆け落ちする場面の姫を演じる子が
   急遽風邪で来れなくなってしまった .


   そこでその子と練習していた私が
   突然にも代理に選ばれてしまった .



   隣に立つのは人気者のマーク .
   関わりはあるものの ,
   近寄りがたくて , 私からすれば遠い人 .


   人懐こく人当たりがいい彼は
   突然の私にも驚かずに
   優しく対処してくれた .


   実は少し気持ちが引っ張られているなんて
   単純すぎているせいもあって言えない .

   でも私を真剣に見つめる彼は
   本当に格好良かった .




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 🍉 
 よし , 位置について! 
 うん、っ 



   マークに指示を出されて
   私は立ち位置に着く .


   長ったらしいセリフも ,
   あの子との練習で覚えてしまった .


   大勢の人が見つめている緊張感の中 ,
   私はひとまずセリフを読み終えては

   ストンと床に座り込む .



 私は王子なんかに見合わない … 
 逃げてきて正解だったのよ ,



   何も後悔することないわ , と
   まるで自分に言い聞かせては
   気持ちを無理にでも消し去ろうとする姫 .


   なんとなーく , 本当になんとなく ,
   私に重なる気がしてならない .


   見合わないからと
   好きじゃないふりをして
   気付かないふりをして , 塞ぎ込む .


   マークが好きだと叫べたら ,
   どれだけ気持ちに余裕が出るだろうか .




   そう思うと予定になかった涙が
   何故だか溢れてきてしまう .


   少しずつざわついていく会場に
   足音が響きわたり ,
   マークが舞台袖から出てくる .




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 🍉 
 姫っ 



   小走りで来た彼は
   私の肩を掴んで身体を向かせた .



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 🍉 
 どうして , 泣いておられるのですか 



   マークはそう言った .

   そんなセリフなんて ,
   台本になかったのに .


 … 苦しいから , です  



   そんな彼に導かれるように
   つい本音がこぼれおちていく .



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 🍉 
 私も , とても胸が苦しいです 
 え , … ?? 
 🍉 
 🍉 
 立ち去らないで欲しかった .
 ずっと傍に , いて欲しかった 
 王子 , … 




   あまりにも切ない顔でそう言うマークは
   不覚にも綺麗だと思えてしまった .



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 🍉 
 こんな所で , ずるいかな 
 わっ , 



   マークは私を引き寄せて
   ぎゅっと力強く抱きしめた .



 🍉 
 🍉 
 好きなんだ , 君のことが 



   マイクも何も無いのだから ,
   もちろん観客に聞こえるはずもない .



   向こう側からしたら
   ただただ抱き合っているだけだけど ,

   私の心臓は
   有り得ないくらい早く動いていた .


 どうして , 私を追いかけるのですか 



   でも , このままじゃ
   物語が進まないと思って
   私はそうマークに投げかけた .



   そうすれば彼は私から離れて
   思い出したかのように



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 🍉 
 すっ , … ぁ , 愛してるから 



   そう言葉を紡いだ .


   愛してるなんて言葉も台本になければ ,
   抱きしめるなんて行動も台本にない .



   台本通りに進まないラストシーンに
   彼は耳を赤らめていた .



   期待したくもないのに ,
   そんな態度じゃ期待しちゃうでしょ .



   ねぇマーク , 本当の気持ちは … ?




 私でいいんですか … ?? 



   気になっていても劇は止められない .
   私は必死の思いで話をつづける .




 🍉 
 🍉 
 … 君がいいんだよ 



   私の頬を包んだ彼は

   愛おしいものを見るような
   熱の篭った瞳で
   私の目をじっと見つめた .



   照れくさくなって顔を下に向ければ
   クイッと軽く持ち上げられる .




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 🍉 
 君は、僕じゃ不安? 
 ぅ , ううん … とっても嬉しいです 



   まるで本音と本音がぶつかり合うような
   アドリブだらけの劇 .


   台本なんて無視したような流れに
   どう終わらせるべきか分からない私は
   黙ってマーク目を見つめ続けた .



 🍉 
 🍉 
 本当に? 良かった , 



   絞り出したようなセリフで
   私に向かって笑ったマークは



 🍉 
 🍉 
 綺麗だ , 目が痛いくらいに 



   そう言葉をこぼしてから
   私の唇に静かに口付けた .




   それと同時に黄色い歓声と ,
   幕が閉じる音 , 大きなブザーが

   重なり合っては終わりを告げた .




 ま , まーく 
 🍉 
 🍉 
 ちゃかま , !!  今は , 見ないで … 



   顔を下げてしまったマークは
   私にそう言った .


   どうしよう , ずっとドキドキしてる .



   もし , 全部本音だったなら , …



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 🍉 
 さっきからの , … 全部嘘じゃないよ 
 へ … 
 🍉 
 🍉 
 僕 , ずっと君が好きだった 




   真っ赤に染った顔のマークが
   私に静かな声でそう告げる .



   王子のような , 
   優しい人気者の彼が迎えたのは

   私のようなパッとしない平民でした .



   ねぇマーク , こんな私でいいのなら
   ずっと手を離さないでいてね ,




   彼の言葉に頷くと ,
   彼は心底嬉しそうに笑った .





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