文化祭なるものがやってきた .
私のクラスの出し物は劇だったのだけれど
王子と駆け落ちする場面の姫を演じる子が
急遽風邪で来れなくなってしまった .
そこでその子と練習していた私が
突然にも代理に選ばれてしまった .
隣に立つのは人気者のマーク .
関わりはあるものの ,
近寄りがたくて , 私からすれば遠い人 .
人懐こく人当たりがいい彼は
突然の私にも驚かずに
優しく対処してくれた .
実は少し気持ちが引っ張られているなんて
単純すぎているせいもあって言えない .
でも私を真剣に見つめる彼は
本当に格好良かった .
マークに指示を出されて
私は立ち位置に着く .
長ったらしいセリフも ,
あの子との練習で覚えてしまった .
大勢の人が見つめている緊張感の中 ,
私はひとまずセリフを読み終えては
ストンと床に座り込む .
何も後悔することないわ , と
まるで自分に言い聞かせては
気持ちを無理にでも消し去ろうとする姫 .
なんとなーく , 本当になんとなく ,
私に重なる気がしてならない .
見合わないからと
好きじゃないふりをして
気付かないふりをして , 塞ぎ込む .
マークが好きだと叫べたら ,
どれだけ気持ちに余裕が出るだろうか .
そう思うと予定になかった涙が
何故だか溢れてきてしまう .
少しずつざわついていく会場に
足音が響きわたり ,
マークが舞台袖から出てくる .
小走りで来た彼は
私の肩を掴んで身体を向かせた .
マークはそう言った .
そんなセリフなんて ,
台本になかったのに .
そんな彼に導かれるように
つい本音がこぼれおちていく .
あまりにも切ない顔でそう言うマークは
不覚にも綺麗だと思えてしまった .
マークは私を引き寄せて
ぎゅっと力強く抱きしめた .
マイクも何も無いのだから ,
もちろん観客に聞こえるはずもない .
向こう側からしたら
ただただ抱き合っているだけだけど ,
私の心臓は
有り得ないくらい早く動いていた .
でも , このままじゃ
物語が進まないと思って
私はそうマークに投げかけた .
そうすれば彼は私から離れて
思い出したかのように
そう言葉を紡いだ .
愛してるなんて言葉も台本になければ ,
抱きしめるなんて行動も台本にない .
台本通りに進まないラストシーンに
彼は耳を赤らめていた .
期待したくもないのに ,
そんな態度じゃ期待しちゃうでしょ .
ねぇマーク , 本当の気持ちは … ?
気になっていても劇は止められない .
私は必死の思いで話をつづける .
私の頬を包んだ彼は
愛おしいものを見るような
熱の篭った瞳で
私の目をじっと見つめた .
照れくさくなって顔を下に向ければ
クイッと軽く持ち上げられる .
まるで本音と本音がぶつかり合うような
アドリブだらけの劇 .
台本なんて無視したような流れに
どう終わらせるべきか分からない私は
黙ってマーク目を見つめ続けた .
絞り出したようなセリフで
私に向かって笑ったマークは
そう言葉をこぼしてから
私の唇に静かに口付けた .
それと同時に黄色い歓声と ,
幕が閉じる音 , 大きなブザーが
重なり合っては終わりを告げた .
顔を下げてしまったマークは
私にそう言った .
どうしよう , ずっとドキドキしてる .
もし , 全部本音だったなら , …
真っ赤に染った顔のマークが
私に静かな声でそう告げる .
王子のような ,
優しい人気者の彼が迎えたのは
私のようなパッとしない平民でした .
ねぇマーク , こんな私でいいのなら
ずっと手を離さないでいてね ,
彼の言葉に頷くと ,
彼は心底嬉しそうに笑った .
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。