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1話. 引っ越し
私、月森 奏。昨日自然に囲まれたこの街に引っ越してきた。
「私...やっていけるかな?」
家の前で私はボソリと呟いた。
目の前には木で出来た二階建ての一軒家が建っている。丸い窓が印象的なこの家。
改めて、今までとは違う所なんだと感じさせられた。
この街で、これから生きていくんだ。
私は自分の部屋に戻ると、ドサッとベッドに倒れこんだ。
「はぁ」
両親の転勤でこっちにきたのだが、私はあまり乗り気じゃなかった。大好きな友達と分かれるなんてたまったもんじゃない。
...最悪だ。
ここにきてからずっとこの言葉が頭で繰り返される。本当に、もうやだよぉ...。
前は楽しくて、明るかった世界が今では暗く見える。
「うぅ...」
溢れる涙をゴシゴシと拭う。
ここにきてから最悪しかない。
両親が仕事から帰ってくると私は作っておいたカレーをテーブルに並べた。両親は仕事で大変なのに、いつも笑顔。
私はそんな両親を悲しませたくなかったため、出来るだけ笑顔を作った。
「わぁ...!奏がカレー作ってくれたの?
ありがとう!」
母が嬉しそうに笑った。
「いつも遅くてごめんな」
父が申し訳なさそうに言う。
でも、私はこの時間が嫌いじゃない。
むしろ、この時間が好き。
母と父の笑う顔をみると嬉しい気持ちになるんだ。
家族3人でカレーを食べる。
おいしい...。
最悪な気分が少しだけ晴れたような気がした。
この時から、私の物語が動き始めていたとも知らずに....
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。