そう声をかけたのは、あたしがなんだかんだ言いながらもこの広い部屋でくつろぎ始めた頃。
さっきの様子からしてグクが優しい返事をしてくれる。
……と思ったのが間違いだった。
さっきの弱々しいグクはどこへ行ったのやら……。
まぁ、しょうがない。これがグクと諦めるのが早い。
そう思い、あたしは言葉を続ける。
テテが言う。
テテに既に馴染みまくりのあたし。
まぁ、それより。
あたしの言葉を遮ってグクが言う。
……殺す! コヤツ……!!
──ふっ。
……まぁまぁあなた。落ち着こう。
このくらいで苛々しちゃ、これから先やっていけないわ。
あたしは、大丈夫よ。
そうあたしが答えたのを合図に話が始まった。
さっそく躓いたあたしに呆れた声で聞いてくる。
興奮気味に話すあたしにもうどうしようもねぇコイツって感じで「常識をわきまえろ」と言う。
常識も何もわかんないんだからしょうがないじゃん!
自分がわかってるからってそんな態度ないじゃん!
そもそもあたしにできるだけわかるように話すっつったのお前じゃん!!
…──とわ言えないわけで。
そんなあたしに気づいたのか、
そう、急に優しく聞いてくる。
え!? え!?
ええぇぇぇぇ!?
完全にパニックに陥ってるあたしに「落ち着けよ」と呆れた声でグクが言う。
それは無理だろう! 落ち着けるわけないだろう!!
落ち着けたら凄げぇわ!!
逆に凄げぇわ!! びっくりだわ!!
とテテがあたしを宥めるように言う。
……が。
逆効果だろう!
それは逆効果だろう! 喧嘩の時点でダメだろう!
もっとパニックってるあたしにまたテテが、
と取り繕うように言う。
関東一の時点でもうダメだろう!
それを「大きいわけじゃないから」って!
もう全然ついていけなくて、力なくそう言った。
……けど……。どうやって帰ろうか?
あ! タクシー!! タクシー乗ろう!! そうだよ! タクシー……は無理だ。
歩いて帰るしかないしね!!
……っていっても道わかんないしね!!!
なんて考えていると、
ってグクが言ったから助かった……って思って素直に「ありがとう」って言おうって思ってたけど、「お前どうせ帰れねぇんだろ?ばかだしな」って言われたからやめた。
マジ、なんなの、コイツ!
マジ、ウザイんだけど!! マジ、ムカつくんだけど!!!
なんて思っててても言ったら置いてけぼりにされるのが関の山だからやめといた。
それからまた黒いセダンでグクと帰えった。
運転手さんに「ありがとうございました」って言ったら「いえいえ。当たり前のことですから」って言われた。
超律儀……。
すんごいいい人だ!!
そう思って「いえいえ」ってあたしが言ったら「早く降りろ、ばか。意味不明な言葉吐いてんじゃねぇよ」ってグクに言われて、すごいカチンとキたけど、おとなしく言うこと聞いてやった。
車から降りた直後に、知らないおじさんにそう声をかけられる。
……え!?
何!? す、ストーカー!?
誘拐!? 誘拐されんの!?
グク!!──…は助けてくれそうにない。
既に家の鍵開けてるしね!
こっち見向きもしないしね!
超役立たずだしね!!
なんて思ってても、実際凄く怖い。
ホントに、怖い。
だんだん知らないおじさんが近づいてくる。
あぁ、もうダメだ。
そう思ってギュッと目をつむると、グクがため息をついて、
と呆れたように言った。
……え……? 親……父って……。
紛らわしいな、おい!
てっきりストーカーだとか思ったし!!
誘拐されると本気で思ったし!!!
……ホントに、怖かった……。
実際あたしは誘拐もされたこともあるし、ストーカーされたことも何回もある。
……けど、やっぱり慣れない。何回経験しても怖い。
そう、唐突にグクが言った。
そしておじさんが中に入っていくと、あたしを抱きしめて
と囁いた。
……わかってたんだ、グクは。
あたしが小さく震えていたことに。
グクのそうゆうところ、変わってない。
あたしのどんな変化にも気づいてくれる。
だからあたしは安心してんのかもしんない。
グクだったら……、って期待してんのかもしんない。
危ない時にグクを呼びたくなるのは。
寂しい時にグクを呼びたくなるのは。
そのせいかもしんない……。
あたしがそう言うまでグクはずっと抱きしめてくれていた。
それからあたし達は家の中に入って、おじさんとおばさんとあたしとグクの4人でおばさんが作ってくれていた晩ご飯に箸をつけた。
それは晩ご飯の途中に言ったおばさんの言葉。
……なんか……。
すっごいお金持ちの学校みたい。
中途半端な時期の転校だけど、馴染めるかな〜。
友達できるといいな。
……なんて考えが甘かった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。