第2話

依頼者
59
2020/04/29 07:21
事務所のインターホンが鳴らされたのは、それからさほど時間の開かない午後4時頃のことだった。
中宮 奏-なかみや そう-
はい。
ドアを開けてみると、惨めなくらいに縮こまった三十路の男と、メガネをかけた小柄な女がドアのすぐ近くに立っている。

あまりに近かったため驚いて撃退しそうになったが、これは大事なお客様だと思い直し、俺は平静を取り戻した。
中宮 奏-なかみや そう-
依頼者の方ですね。
中宮 奏-なかみや そう-
中へお入りください。
滝沢 靖明-たきざわ やすあき-
……はい。
谷中 美涼-やなか みすず-(秘書)
失礼します。
俺がドアの間隔を広げると、男とその秘書は辺りを警戒するように見回し、滑るように玄関に入ってきた。
事務所へ案内すると、綾波が散らかしていた駄菓子類は片付けられていて、いかにも商談にふさわしいテーブルへと変わっていた。

綾波が依頼者が来たことを察知して、慌ててそれらを隠蔽したんだろう。
今も何気なくうま○棒の食べかすを机から拭った。
桃田 綾波-ももた あやは-
よくいらっしゃいました。
桃田 綾波-ももた あやは-
この度はなんでも屋“シークレット”をご利用頂きありがとうございます。
完全に仕事モードに入っている綾波。

しかし、俺は見逃さなかった。
桃田 綾波-ももた あやは-
………………(ニコッ)
社交辞令の挨拶と、ビジネススマイルの僅かな間に、

――綾波の頬が失望にひくつくのを。
中宮 奏-なかみや そう-
…それでは早速、詳細な打ち合わせに入ってもよろしいでしょうか。
滝沢 靖明-たきざわ やすあき-
お願いします……。
はっきり言おう、――今回の依頼者、滝沢 靖明の容貌は、お世辞にも整っているとは言えない。

俺が指し示したソファに向かい、眼前を通り過ぎる滝沢の頭は、ハゲていた。
我ながら、依頼者に対して失礼極まりない感情を抱いている自覚はある。

しかし、表情には一切出さない。


それは、隣に座った綾波も同じだ。
桃田 綾波-ももた あやは-
改めまして、この度はなんでも屋“シークレット”をご利用頂き、誠にありがとうございます。
桃田 綾波-ももた あやは-
担当させて頂く、私、桃田 綾波と
中宮 奏-なかみや そう-
中宮 奏と申します。
負の感情を一切顔に出さず、完璧なポーカーフェイスでミーティングを始める綾波だが、俺には分かる。がっかりしてる。
滝沢 靖明-たきざわ やすあき-
よろしくお願いします…。
縋るような眼差しを俺たちに向けてくる滝沢。
桃田 綾波-ももた あやは-
…それでは、今回の依頼について確認を行います。
綾波は淡々とした口調で話を進める。

これがイケメンだったなら……彼女はそれはそれは張り切るだろうに。




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