「はじめまして、」
柔らかく優しい、どこか緊張を感じる声が両耳から入ってきた。
「初めまして___柚です」
これが、あなたとの初めての会話だった。
ピコン
机の上で震えた携帯を手に取り、たった今届いたばかりの通知を開く。
私に届く、大体の通知の相手はネットの人だ。
顔も知らない、どんな人かも分からないけれど、それが変な気を遣わず、私には楽だった。
少し前から私は、あるチャットアプリで、色んな人と連絡を取っていた。
その中の一人、そう、それが、『あなた』
まだ、知り合って一ヶ月も経っていなかった。
他の人と違って、落ち着いた雰囲気を纏った文章は、私に自然とメッセージを送らせていた。
1つ上なだけなのに、
最初は趣味が合ったというだけなのに、
『椿さん』は自分のことを最低限しか話さない。私のこともあまり尋ねて来ない。
毎日の日々を二人で少しだけ、分け合って教えあって、それが、心地よかった。
私に穏やかな時間をくれた。
「ふふ、短文に似合わない顔文字だなあ」
椿さんは、いつも短文だし、素っ気ない言い方だし、何を考えてるかわからない。
だけど、お返事は早いから、きっと話したくないわけではないだろうし、
顔文字を使う可愛いところがあったり、
普通人と話してると大体どんな人か分かるのにこの人は全然分からない。
何故だろう。
私は、そういうところに、引き寄せられた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。