椿さんの作詞は、本当に素敵だった。
日本語への愛情が、よく伝わってくる。
世界観がどこか切な気で寂し気で、寄り添いたくなるような歌詞を書く人だった。
歌詞は、人を表す。
その人の心のうちの言葉が、表れている。
だからなのかな、
私は、作詞を見せてもらうようになってから、
ますます椿さんに『興味』を持った。
「…録音?」
録音って、あれか?あれなのか?
なんかの授業?バイト?テレビ?録画?
いや、短文はいいと思うんだ。
短い言葉の中に凝縮された意味を考えて、言葉を返すのも悪くない。
「それにしても、伝わらないでしょこれじゃあ、笑」
それでも、腹は立たなかった。
リアルだったら、「なんで主語がないの?!」とか言っていたりするのだろう。
ストレスかな。
この人と話しているとストレスがないから、苛立たないのかな。
「んん!!??」
まさか、趣味をそこまで形していたとは思わず、興味と驚きと尊敬と瞬間的に感情が降ってきた。
すぐさま飛んでいって聞いた。
両耳でしっかりと、
会ったこともない、
一ヶ月足らずの会話のみを繰り返したその『椿さん』の声を、歌を、聞いた。
「っ、かっこいい」
その一言に尽きた。
その一言にすべてが込められていて悔しいくらいだ。
私は過去作品も全て脳の中まで響かせ、聞き入った。
何も、考えていなかった。
気づけば、私は、椿さんにメッセージを送っていた。
「待って、なんで私こんなこと送っちゃったんだろう?!」
思いがけない言葉を
衝動的に送ってしまった自分への驚きと
恥ずかしさと
それ以上に、ふつふつと心の中で沸き立つ、言葉にできない久しぶりに感じる熱の高まりが何とも歯がゆかった。
感情だけで留めることが出来ず、自分の部屋を携帯片手に右往左往していた。
椿さんからの返事を見たその瞬間、
私の中で『果実』が弾けたように感じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!