side.kn
何時からか後輩が俺に強く当たる様になって来た。始めは照れ隠しだと思って居たが段々と冷たくなる相手を見て、『嗚呼、俺嫌われとるんやな。』なんて心の何処かでは思い始めて居た。
それでも相手を嫌いになれないのは自分でも凄く不思議で唯一の後輩と言うこともあってかことある事に構いたくなって仕舞うのだ。まぁ、大体は強く当たられて終わるのだが。
今思うと俺はドMの素質があったのかもしれない、なんてな(笑)
今日も仕事を終え、帰ろうかと立ち上がるとふと視線に″紫色の彼″が何か考え込むような素振りを見せていて気になって思わず声を掛けてしまった。
上擦った声を出した彼に驚く暇もなく普段通りの態度へと戻って仕舞い、とりあえずはその場を立ち去る。何悩み事でも抱えて要るのだろうか。だとしたら助けてあげたいなんて、事の発端が俺の事だったら立ち直れへんわ。なんて、柄にもなく脳裏にそんな事が過ぎりひとりほくそ笑む。
外へ出て普段は余り好き好んで吸わない煙草をひとつ出す。
そろそろ夜も近い。夜は昼と違って落ち着かない。あの後輩が闇と一緒に消えてしまうのでは無いかなんて有りもしないのにそんなことを考えて仕舞うのだ。
慕われている訳でも無い、特別好かれている訳でも無い筈なのにこんなにも彼を構いたくなってしまうのは可笑しいことなのだろうか。
月明かりに照って出来た自分の影を見つつ
早くなる心臓を抑えて呟いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!