悟はミット打ちをしながら、ただ聞いていた。
悟の肩を抱いて、竜二が宥めるように言い聞かす。
突然円陣を組み始めた道史に、私達も後に続いた。
みんなで手を重ねて、自由を勝ち取るために声を上げた。
ーガシャン
大きな音を立ててドアが開くと、道史のお母さんがいた。
タブレットを差し出されて、道史は思わずそれを手に取った。
私が知る限り、道史は初めてお母さんに反抗している。
小さい頃からずっとお互い親に悩まされて、お互い励ましあって、お互い堪えてたけど。
そんな道史の変化に私は戸惑いながらも、頑張れって心の中で叫んでた。
道史のおばさんの迫力に負けてすぐ静かになる悟。
お母さんの腕を振りほどいて外へと走り出した道史をおばさんも追うけど、三平さんが立ちはだかった。
三平さんが道をあけてしまったから、逃げた道史をお母さんが追って行く。
そんな会話がされてるなんて知らない私たちは、道史が無事にお母さんから逃げられることを祈ることしか出来なかったんだ。
放送部の動画がアップされたことを知らせる通知を見て、正直嫌な予感がした。
嫌な予感は的中して、またひとつ悟に無実の罪が重ねられた。
それから、今回は篤や竜二にまで。
動画の内容で持ち切りのチャットを見て、竜二は不貞腐れたように言った。
学校中が敵になったとしても、私は3人といることを辞める気なんてない。
ここにしか、私の居場所なんて無いんだから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!