第34話

嘘をついた日
3,916
2020/09/10 11:19
あなた

道史、今日はありがと。

柴山道史
柴山道史
本当に送らなくて大丈夫?
あなた

うん!ヘブン寄ってから帰るから

柴山道史
柴山道史
なんかあったらいつでも連絡しろよ?
あなた

ありがと!


1日一緒に居てくれた道史と別れて商店街を歩く私の背中に、心無い言葉が刺さる。
女子
あれ、深田あなたさんじゃない?
女子
あの二股の?
男子
ミス富室高の人じゃん
男子
綺麗だからって二股は無いよな
女子
調子乗んなよ!

面識もないうちの高校の生徒から動画の内容について悪口を吐かれる。

でも平気。大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、聞こえないフリをした。

なのに、
男子
ねーねー、ミス富室高ちゃん♪
あなた

・・・

男子
俺とも浮気しよーよ!
あなた

・・・

男子
なぁ、無視すんなよっ!

後を追いかけて絡んできた男子は大きな声を上げて、私の腕を掴んできた。
あなた

・・・ッ!!


こんなとき嫌でも思い出す、父親の暴力。
その場にしゃがみ込んだ私に、男子は驚きながらも、しゃがんで肩を抱いた。
男子
ごめん、ごめん。ビックリした?(笑)
あなた

・・・は、離してっ!!

男子
ってぇ!

突き飛ばすようにその男子の肩を押すと、急いでその場を離れた。







あなた

ハァハァ・・・

必死に走ってたどり着いたのは、篤のお気に入りの場所として教えてもらった丘。

無意識にこの場所に足が向かっていた。

春日篤
春日篤
・・・あなた?
あなた

篤・・・


そこには篤がいて、まさかの事態にお互い目を合わせて固まった。
あなた

ご、ごめん!いるって知らなくて・・・

春日篤
春日篤
別に・・・
あなた

あの・・・私、帰るね!


私たちの間に流れる沈黙が怖くて、そう言うけど、私の腕は篤によってガッツリと押さえられている。
あなた

・・・篤?

春日篤
春日篤
帰んな
あなた

う、うん・・・

真剣な眼差しに私はそう答えるしか無かった。
春日篤
春日篤
・・・
あなた

・・・


沈黙が怖い。

なにを話そう。別れ話をされるのかな。
そんなことばかり脳裏によぎって、私は下を向いた。
春日篤
春日篤
あのさ・・・
あなた

う、うん・・・

"もうダメだ。きっと振られる。"
そう思った。


春日篤
春日篤
動画あれ、真実じゃないから
あなた

・・・ふへっ?


想像していた言葉とは違う内容に、私は間抜けな声を出した。
春日篤
春日篤
ふっ・・・なんだよ、その声(笑)
あなた

だ、だって・・・

春日篤
春日篤
俺は二股なんてしてない。
好きなのは、あなただけだから。

ハッキリとそう言ってくれた言葉に、自然と涙が零れた。
春日篤
春日篤
なんで泣くの?(笑)
あなた

だってぇ・・・

春日篤
春日篤
あなたも道史とは何も無いって信じていい?

優しいけど、しっかりとした口調で問いかける篤に、何度も何度も頷いた。
春日篤
春日篤
よかった。安心した。
そう言ってギュッて私を抱きしめる篤。
あなた

道史は私の幼馴染みで、なんでも相談出来るけど。でも、隣にいるのは篤じゃなきゃ嫌なの。

春日篤
春日篤
俺もあなたじゃなきゃ嫌だよ

その後、篤は彩香とふたりでいた理由を教えてくれた。


彩香が一人暮らしの家に勝手に上がって部屋を掃除していたこと、実家に上がり込んでお義母さんから料理を習ってたこと。

そして、その時に産気づいたお義母さんを病院に連れてってくれたから、妖怪カードを渡したことも。

私が聞きたいことは何もかも、全部。

春日篤
春日篤
俺も聞いていい?道史とのこと
あなた

うん

私も道史とのことを篤に話した。

竜二から「篤が二股してる」と聞いて秘密基地を飛び出した私を追いかけて話を聞いてくれたことをちゃんと話した。
あなた

道史はうちの親のことも全てを知ってるから

春日篤
春日篤
親のこと?
あなた

あっ・・・えっと、

ふいに親のことを言ってしまって、言葉を失った。

篤に言うべきなのかもしれない。
これが本当のことを言うチャンスかもしれない。

春日篤
春日篤
ご両親のこと、あんまり話さないよね
あなた

う、うん。毒親なの!
道史んちみたいに過保護で・・・


咄嗟に出た言葉は " 嘘 " 。
篤に本当のことを伝えることが出来なかった。
春日篤
春日篤
そっか。じゃあ、あんまり夜遅くになったら心配させちゃうな。
あなた

うん・・・

春日篤
春日篤
今日は帰ろっか
あなた

そうだね・・・



何度も本当の親のことを言おうとするのに、その度に喉が詰まるみたいに声が出なくなって、代わりに嘘が口から漏れた。

この日、私は家族のことを篤に "言ってない" んじゃなくて、 "嘘" をついたんだ。

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