1日一緒に居てくれた道史と別れて商店街を歩く私の背中に、心無い言葉が刺さる。
面識もないうちの高校の生徒から動画の内容について悪口を吐かれる。
でも平気。大丈夫。
そう自分に言い聞かせて、聞こえないフリをした。
なのに、
後を追いかけて絡んできた男子は大きな声を上げて、私の腕を掴んできた。
こんなとき嫌でも思い出す、父親の暴力。
その場にしゃがみ込んだ私に、男子は驚きながらも、しゃがんで肩を抱いた。
突き飛ばすようにその男子の肩を押すと、急いでその場を離れた。
必死に走ってたどり着いたのは、篤のお気に入りの場所として教えてもらった丘。
無意識にこの場所に足が向かっていた。
そこには篤がいて、まさかの事態にお互い目を合わせて固まった。
私たちの間に流れる沈黙が怖くて、そう言うけど、私の腕は篤によってガッツリと押さえられている。
真剣な眼差しに私はそう答えるしか無かった。
沈黙が怖い。
なにを話そう。別れ話をされるのかな。
そんなことばかり脳裏によぎって、私は下を向いた。
"もうダメだ。きっと振られる。"
そう思った。
想像していた言葉とは違う内容に、私は間抜けな声を出した。
ハッキリとそう言ってくれた言葉に、自然と涙が零れた。
優しいけど、しっかりとした口調で問いかける篤に、何度も何度も頷いた。
そう言ってギュッて私を抱きしめる篤。
その後、篤は彩香とふたりでいた理由を教えてくれた。
彩香が一人暮らしの家に勝手に上がって部屋を掃除していたこと、実家に上がり込んでお義母さんから料理を習ってたこと。
そして、その時に産気づいたお義母さんを病院に連れてってくれたから、妖怪カードを渡したことも。
私が聞きたいことは何もかも、全部。
私も道史とのことを篤に話した。
竜二から「篤が二股してる」と聞いて秘密基地を飛び出した私を追いかけて話を聞いてくれたことをちゃんと話した。
ふいに親のことを言ってしまって、言葉を失った。
篤に言うべきなのかもしれない。
これが本当のことを言うチャンスかもしれない。
咄嗟に出た言葉は " 嘘 " 。
篤に本当のことを伝えることが出来なかった。
何度も本当の親のことを言おうとするのに、その度に喉が詰まるみたいに声が出なくなって、代わりに嘘が口から漏れた。
この日、私は家族のことを篤に "言ってない" んじゃなくて、 "嘘" をついたんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!