第9話

9、ancora altisonante
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2020/05/07 15:18

※第8話の続きです。






不死川は心底驚愕した。冨岡はてっきり、もう。「死人扱いをするな」と怒られてしまった。不死川は驚愕したけれど同時に安堵もした。冨岡は生きている。


「いや、あの、わりィ、、。」


いや言えるかァ!!死んでいたと思ってたから、つい、なんてェ!!


「いや、気にしないでくれ。良く生気を感じない顔だなと言われるんだ、、。」


アッなんか心なしかしょんぼりしてるように見えるゥ!!


「いや、そういう意味じゃなくてなァ、、」


「?そうか」


ひとまず誤解(?)は解けたようだ。


「不死川!!俺はピアノの調律師をするぞ!!」


「は?」


突如言われた。こんな反応にもなるだろう。何の脈絡もない。


「だから俺はピアノの調律師になるんだ!」


「えっ?調律出来んのかァ?」


「この一週間、特訓した。」


「エッ、そんなの付け焼き刃だろォ。」


「そっ、そんな事、無いぞ、、?」


「止めろォ。止めとけェ。」


「俺は結構器用なほうだ。意外とやったら出来たりする。」


「“出来る”と“上手い”は違ェんだよォ。」


「くっ、ならピアノをつくる人になる!」


存外、簡単に折れる。自分でも気づいていたのだろうか。ただ、他の人より習得するのが早いだけであって、そこまでだと。“上手く”はなれないのだと。そんなの、才能がないのだと同義だ。


「無理だろォ。」


「っなら!ピアノを売る人!」


「止めとけェ。客の反感を買う未来しか見えねェ。」


「むっ、俺は口下手じゃない。」


「誰もそこまで言ってねェよォ。」


「ピアノは?もう弾かねェのかァ?」


「、、、、もう、、弾かない。」


「あっそォ。好きにしろォ。俺は止めねェからァ。」


不死川はもう帰ってしまいそうで。もう踵を返している。


「っっ、、待っ、待て!」


冨岡が叫ぶ。


「ハァ?何だァ?」


不死川は後ろを振り返る。


「あっ、えと、その、何でもない。すまない、、。」


「ハァ?なんか言いたい事あんならァ、言えやァ。」


「あっ、えとその、、。」


「ハァ?何だァ?真逆ァ、“ピアノを止めるな”とでも言って欲しかったんじゃねェのォ?」


「えっ、、違っ、違うんだ、、。」


「ハァ、止めたいならそうすればァ、良いんじゃァねェのォ?」


「ピッ、ピアノは止めたい、、んだ、、。ただ、姉さんが、。」


「ハァ、お前の家族が亡くなったことは知ってるよォ。お前の姉ちゃんのこともなァ。その姉ちゃんがお前とどう関係してんだァ。」


「“ピアニストになる”っていうのは姉さんの夢なんだ、、。」


「それがどうお前と関係するんだァ。」


「えっ。お、俺は姉さんの夢を継いで、、。俺は姉さんの代わりを、、。」


「ハァ?お前が姉ちゃんの夢を継ぐゥ?姉ちゃんの代わりィ?巫山戯るのも大概にしろォ。」


「っな、姉さんの夢を否定したのか!?」


「お前の姉ちゃんの夢は否定してねェよォ。お前の事だァ。」


「俺のこと、、、、?」


「ハァアアアアアアアア(クソデカため息)お前の夢を否定してんだァ。」


「っそ、そうだよな。こんな俺が姉さんの夢を継げる訳が無いよな。」


「ハァアアアアアアアア(クソデカため息)違ェ。お前の夢は何だァ?」


「俺、俺っ?」


「お前以外に誰が居るゥ。」


「俺のゆ、夢、、?えーとえとう、うん?」


「ハァアアアアアアアア(クソデカため息)お前が1番していて熱中したのはァ?」


「ピアノを弾いている時だな。」


「お前が夢中になるものはァ?」


「ピアノの練習だな。」


「お前が1番好きな事はァ?」


「ピ、ピアノだ、、。」


「ホラァ、何で分かんねェんだよォ。」


「へ?えっ?」


「お前のォ!!お前自身の夢はァ!!“ピアニスト”!!違うかァ!?」


「へっ?ち、違う!それは姉さんの夢だ!!」


「なァ、お前に本当に姉ちゃんの代わりが出来ると思うかァ?飯も食わねェ、眠りもしねェ、挙句に倒れるしィ、飯食ったかと思ったら、死ぬほど口の周りにパン屑つけやがるしィ、忘れ物多いしィ、口下手だしィ、表情筋死んでるしィ、後なんだァ?表情筋死んでるしィ。」


「う“っ、、、いや表情筋の事は2回も言わなくて良いだろう!」


「“これは姉ちゃんの夢”だとか言って、自分の事は考えてなかったんだろォ?本当は、”自分がピアニストになりたい“と思っているのに気づかない振りしてェ。そして、いつの間にか自分のなりたかった”夢“を忘れていたァ。違ェかァ?」


「えっ、、、」


「お前が”ピアニストになりたい“ってェ、頑なに認めねェのはァ、卑屈だからなんだよォ。卑下してんだよォ。”俺よりも姉ちゃんの方が上手い“とでも言いたいんだろォ。”上手く無い俺はピアニストになる資格が無い“そうして自分を卑下しまくってェ、本当に自分の音が、自分自身の音が、”上手く無いように聴こえたァ。”周りが弾くピアノの音と比較してなァ。」


「そっそうか、、。」


「お前にはピアノしかねェんじゃァねェのォ?」


「姉さんも俺の自慢の姉だよ」姉に言った言葉を憶い出す。
「錆兎は錆兎がしたいのをしなよ」親友に言った言葉を憶い出す。
そうだ。そうだった。そう言った。でも言って欲しかったのは俺の方だ。
だから俺は、、。いや違う。
姉さんは言ってくれていた。「自慢の弟」だと。
錆兎は言葉にしてくれなかったけど、俺がピアノを弾いていて「止めろ」だとか「うるさい」だとか言わなかった。
俺は俺のピアノの音のままで、良かったのか、、?
姉さんの音を完璧に追求した、あの音では無く、、、、?

そっか。

そうだったんだなぁ。


「そっか、そうだなぁ。うん。そうだ。自分の事を俺は、ずっと、卑下してた、、。ずっと、卑屈になってた、、、。最初から、”そんな事ない“と言ってくれていた人がいたのに俺は、、。」


「やっと分かったかァ。」


「すまない。不死川。随分時間を取ってしまった。」


「ハァ?普通そこは感謝だろォ?」


「えっ」


「“ありがとう”だろォオ!!!」


「ふふっ、そうだなぁ。そうだ。“ありがとう”不死川。」


「チッ。もうちょっと早く気付けってのォオ!!」


「後、俺は姉さんのこと”姉ちゃん“などとは呼ばないぞ。」


「うるせェ。細けェとこきにしてっとハゲんぞォ。」


「ハッ、ハゲ!?いや頭の脱毛症の多くは遺伝だと言う。父さんは無事だった。俺も、多分!無事だ!」


「いやそんな事どうでも良いんだよォオ!前、お前が言ってた”俺の音とは違う“って奴ゥ、”感情の音“だろォ?」


「そうだな、、。長いこと俺の音には”感情の音“がのらない。」


「そうかィ?お前が出す姉ちゃんの音には感情を感じ無かったけどォ、お前自身の音は聴いたことねェから分かんねェやァ?」


とぼけるように不死川は言う。


「そうだな。うん、これからは俺自身の音でピアノを弾くよ。」


「あっそォ。お前の、冨岡義勇自身の夢はァ、何だァ?」


「ああ、無論。ピアニストだ。」







〜happy end〜


いやまだ終わらねェからァ!!!!!!!




作者
作者
うわぁ。頑張りましたぁ。〜完〜じゃないです。まだ続きます。(言ってもあと1話ですが)多分次のお話は楽しいです。多分。多分。「百の欠点を無くしている暇があるなら、一つの長所を伸ばした方がいい。」画家ルノワールの言葉です。素敵ですよね。実はこの言葉から考えたんです。この第9話。「細かいこと気にしたらハゲるよ!!」は実兄に言われました。心外!!

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