※第8話の続きです。
不死川は心底驚愕した。冨岡はてっきり、もう。「死人扱いをするな」と怒られてしまった。不死川は驚愕したけれど同時に安堵もした。冨岡は生きている。
「いや、あの、わりィ、、。」
いや言えるかァ!!死んでいたと思ってたから、つい、なんてェ!!
「いや、気にしないでくれ。良く生気を感じない顔だなと言われるんだ、、。」
アッなんか心なしかしょんぼりしてるように見えるゥ!!
「いや、そういう意味じゃなくてなァ、、」
「?そうか」
ひとまず誤解(?)は解けたようだ。
「不死川!!俺はピアノの調律師をするぞ!!」
「は?」
突如言われた。こんな反応にもなるだろう。何の脈絡もない。
「だから俺はピアノの調律師になるんだ!」
「えっ?調律出来んのかァ?」
「この一週間、特訓した。」
「エッ、そんなの付け焼き刃だろォ。」
「そっ、そんな事、無いぞ、、?」
「止めろォ。止めとけェ。」
「俺は結構器用なほうだ。意外とやったら出来たりする。」
「“出来る”と“上手い”は違ェんだよォ。」
「くっ、ならピアノをつくる人になる!」
存外、簡単に折れる。自分でも気づいていたのだろうか。ただ、他の人より習得するのが早いだけであって、そこまでだと。“上手く”はなれないのだと。そんなの、才能がないのだと同義だ。
「無理だろォ。」
「っなら!ピアノを売る人!」
「止めとけェ。客の反感を買う未来しか見えねェ。」
「むっ、俺は口下手じゃない。」
「誰もそこまで言ってねェよォ。」
「ピアノは?もう弾かねェのかァ?」
「、、、、もう、、弾かない。」
「あっそォ。好きにしろォ。俺は止めねェからァ。」
不死川はもう帰ってしまいそうで。もう踵を返している。
「っっ、、待っ、待て!」
冨岡が叫ぶ。
「ハァ?何だァ?」
不死川は後ろを振り返る。
「あっ、えと、その、何でもない。すまない、、。」
「ハァ?なんか言いたい事あんならァ、言えやァ。」
「あっ、えとその、、。」
「ハァ?何だァ?真逆ァ、“ピアノを止めるな”とでも言って欲しかったんじゃねェのォ?」
「えっ、、違っ、違うんだ、、。」
「ハァ、止めたいならそうすればァ、良いんじゃァねェのォ?」
「ピッ、ピアノは止めたい、、んだ、、。ただ、姉さんが、。」
「ハァ、お前の家族が亡くなったことは知ってるよォ。お前の姉ちゃんのこともなァ。その姉ちゃんがお前とどう関係してんだァ。」
「“ピアニストになる”っていうのは姉さんの夢なんだ、、。」
「それがどうお前と関係するんだァ。」
「えっ。お、俺は姉さんの夢を継いで、、。俺は姉さんの代わりを、、。」
「ハァ?お前が姉ちゃんの夢を継ぐゥ?姉ちゃんの代わりィ?巫山戯るのも大概にしろォ。」
「っな、姉さんの夢を否定したのか!?」
「お前の姉ちゃんの夢は否定してねェよォ。お前の事だァ。」
「俺のこと、、、、?」
「ハァアアアアアアアア(クソデカため息)お前の夢を否定してんだァ。」
「っそ、そうだよな。こんな俺が姉さんの夢を継げる訳が無いよな。」
「ハァアアアアアアアア(クソデカため息)違ェ。お前の夢は何だァ?」
「俺、俺っ?」
「お前以外に誰が居るゥ。」
「俺のゆ、夢、、?えーとえとう、うん?」
「ハァアアアアアアアア(クソデカため息)お前が1番していて熱中したのはァ?」
「ピアノを弾いている時だな。」
「お前が夢中になるものはァ?」
「ピアノの練習だな。」
「お前が1番好きな事はァ?」
「ピ、ピアノだ、、。」
「ホラァ、何で分かんねェんだよォ。」
「へ?えっ?」
「お前のォ!!お前自身の夢はァ!!“ピアニスト”!!違うかァ!?」
「へっ?ち、違う!それは姉さんの夢だ!!」
「なァ、お前に本当に姉ちゃんの代わりが出来ると思うかァ?飯も食わねェ、眠りもしねェ、挙句に倒れるしィ、飯食ったかと思ったら、死ぬほど口の周りにパン屑つけやがるしィ、忘れ物多いしィ、口下手だしィ、表情筋死んでるしィ、後なんだァ?表情筋死んでるしィ。」
「う“っ、、、いや表情筋の事は2回も言わなくて良いだろう!」
「“これは姉ちゃんの夢”だとか言って、自分の事は考えてなかったんだろォ?本当は、”自分がピアニストになりたい“と思っているのに気づかない振りしてェ。そして、いつの間にか自分のなりたかった”夢“を忘れていたァ。違ェかァ?」
「えっ、、、」
「お前が”ピアニストになりたい“ってェ、頑なに認めねェのはァ、卑屈だからなんだよォ。卑下してんだよォ。”俺よりも姉ちゃんの方が上手い“とでも言いたいんだろォ。”上手く無い俺はピアニストになる資格が無い“そうして自分を卑下しまくってェ、本当に自分の音が、自分自身の音が、”上手く無いように聴こえたァ。”周りが弾くピアノの音と比較してなァ。」
「そっそうか、、。」
「お前にはピアノしかねェんじゃァねェのォ?」
「姉さんも俺の自慢の姉だよ」姉に言った言葉を憶い出す。
「錆兎は錆兎がしたいのをしなよ」親友に言った言葉を憶い出す。
そうだ。そうだった。そう言った。でも言って欲しかったのは俺の方だ。
だから俺は、、。いや違う。
姉さんは言ってくれていた。「自慢の弟」だと。
錆兎は言葉にしてくれなかったけど、俺がピアノを弾いていて「止めろ」だとか「うるさい」だとか言わなかった。
俺は俺のピアノの音のままで、良かったのか、、?
姉さんの音を完璧に追求した、あの音では無く、、、、?
そっか。
そうだったんだなぁ。
「そっか、そうだなぁ。うん。そうだ。自分の事を俺は、ずっと、卑下してた、、。ずっと、卑屈になってた、、、。最初から、”そんな事ない“と言ってくれていた人がいたのに俺は、、。」
「やっと分かったかァ。」
「すまない。不死川。随分時間を取ってしまった。」
「ハァ?普通そこは感謝だろォ?」
「えっ」
「“ありがとう”だろォオ!!!」
「ふふっ、そうだなぁ。そうだ。“ありがとう”不死川。」
「チッ。もうちょっと早く気付けってのォオ!!」
「後、俺は姉さんのこと”姉ちゃん“などとは呼ばないぞ。」
「うるせェ。細けェとこきにしてっとハゲんぞォ。」
「ハッ、ハゲ!?いや頭の脱毛症の多くは遺伝だと言う。父さんは無事だった。俺も、多分!無事だ!」
「いやそんな事どうでも良いんだよォオ!前、お前が言ってた”俺の音とは違う“って奴ゥ、”感情の音“だろォ?」
「そうだな、、。長いこと俺の音には”感情の音“がのらない。」
「そうかィ?お前が出す姉ちゃんの音には感情を感じ無かったけどォ、お前自身の音は聴いたことねェから分かんねェやァ?」
とぼけるように不死川は言う。
「そうだな。うん、これからは俺自身の音でピアノを弾くよ。」
「あっそォ。お前の、冨岡義勇自身の夢はァ、何だァ?」
「ああ、無論。ピアニストだ。」
〜happy end〜
いやまだ終わらねェからァ!!!!!!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。