※第7話の続きです。
不死川はその後、帰った。回復しているといっても、長時間の面会はキツいだろう。錆兎達とも喋っていたし。
不死川はその後忙しくなり、冨岡に会える時間が取れたのは一週間後だった。不死川が冨岡がいる病院に行こうと、足を早めていた時だった。
「不死川!もしもし!錆兎だ!鱗滝錆兎だ!」
突如、錆兎から電話がかかってきた。不死川と錆兎は初対面のあの日、何かあったら、直ぐに錆兎に連絡出来るように、連絡先を交換していたのだった。
「おォ、不死川だァ。何だァ?」
「義勇が!義勇が病室から居なくなった!」
「はァ?トイレとかじゃねェのォ?」
「俺もそうだと思ったんだ!でも待っても待っても病室に帰ってこないんだ!看護師さんも“分からない”って言うんだ!」
「えっ」
「不死川!俺は義勇が行きそうな所を探してみる!不死川も手伝ってくれ!」
「わっ分かったァ!」
電話はそこで切れた。不死川は取り敢えず、冨岡の家に行ってみることにした。
冨岡の家に着いたは着いたものの、家に入るには、玄関のドアを通らなければいけない。
「どうしよっかなァ。」
不死川は勿論、冨岡の家の合鍵など持っていない。不死川がありえねェよなァ、と思いながら、ドアに手をかけた。
開いた。開いてしまった。
「ハッ!?無用心過ぎんだろォオ!!」
開いてしまったからには、中に入るしか不死川の選択肢はない。不死川の頭の中には「不法侵入」という言葉がよぎったが、気にしないでおくことにした。
「おい!冨岡ァ!いるかァ!?」
返事は無い。不死川は冨岡の家を見たが、もぬけの殻だった。けれど見ている時に、気になったものはあった。写真立てだった。冨岡の幼少期らしき人物と、姉らしき人物。錆兎の言葉を思い出していた。
不死川が冨岡の家から出ると、不死川は早速頭を抱えた。もう探す所が無い。不死川は冨岡の家しか知らなかった。
「えっ。どうしよォ。」
切実に。誰か教えてくれ。
「よし!後はもう適当にィ!」
冨岡の家しか知らない不死川はもうそう考えるしか無かった。大学生御用達のスターハックスコーヒー。冨岡の家から近所のスーパー。楽器屋。etc、、、
「何処にもいねェじゃねェかよォ!」
不死川はあらゆる場所を探し回った。何処にもいない。そろそろ不死川の堪忍袋の緒が切れそうになっていた時のこと。ふと、パンの香ばしい香りがしてきた。不死川が見てみると、「竈門ベーカリー」という名前をしていた。エッ、難しッ。と、不死川は思っていた。世間はこれを「おまいう案件」という。
「あらっ?こんにちはー!」
明朗快活を現したような声で1人の少年が言う。
「まだ開いてますよー!焼き立てです!うちのパンは美味しいですよ!」
不死川はパンを買おうとは思っていなかったが、特別パンが嫌いというわけでもなかったので、少し、店を見てみようと思った。
不死川は一つのパンが気になった。ぶどうパンだ。冨岡は飯はちゃんと大学に持ってきてはいた。ただ食べ損ねてしまうだけで。冨岡はこのぶどうパンをよく昼ご飯に食べていたように思う。
「このパンですか?すっごく美味しいですよ!こう噛んだらふわってなって、ホロホロってなって、うーん。上手く言い表すことが出来ないんですけど、兎に角、美味しいですよ!」
話がぐるぐる回っている。美味しいことしか分からない。
「このぶどうパン良く買ってくださる常連さんがいらっしゃるんですけど、最近来なくなったんですよねー。どうしてるんでしょう。」
不死川は少年の言葉に反応した。
「ソイツの名前は分かるか?」
不死川は焦ったように少年に訊いた。少年の肩を乱暴に揺らし、尋ねた。
「ぅえっ?えっえと!個人情報なので教えることは出来ないです!すみません!!!!」
「冨岡!冨岡義勇っていう名前じゃァねェかア!?」
「えっ!凄いです!何で分かったんですか!?」
「同じ大学なんだァ。」
「そうだったんですか!」
「なァおい!えっとォ、、」
「竈門炭治郎です!!!!」
「竈門ォ!冨岡についてなんか知らねェかァ?些細な事でも良いからァ!!」
「え、えっと!義勇さんは凄く綺麗な方です!!!」
「それは知ってるわァ!!他だァ!!」
「え、えっとぉ、あっ!!そういえば最近、義勇さんがパン買いに来なくなった直前!“姉さんに会いたい、、“と呟いていた気がします!多分!義勇さんにお姉さんがいらっしゃるんですよ!?凄く綺麗な方だと思いませんか!?」
「っそ、そうかィ。ありがとなァ、、。」
冨岡の姉さんは確か故人。冨岡は今、ひょっとすると。そんな想像が頭をよぎった。いや真逆。倒れて、頭の打ち所が悪かったのはもしや。そんな想像をしてしまった。
そんな想像をしてしまった後の一週間は最悪だった。大学は勿論、真面目なので休みはしなかったが、気分はどん底だった。
今日は日曜日。大学は休みで、不死川はある場所に向かっていた。電車を乗り継ぎ、歩いていた。着いたのは冨岡の実家。場所は鱗滝さんから聴いた。冨岡は案外、行動力はあるのだ。眠りたいのなら直ぐに眠るだろう。家族の想い出がある実家で眠ろうとするだろう。不死川の勝手な推理だが、家族と同じ墓で眠りたいだろう。誰も墓参りに来ないのは嫌だろうと不死川は思い、冨岡の実家に来たのだった。
冨岡の実家は大きかった。管理されてない家は一目で分かる。けれど案外綺麗な家だった。田舎ではなく、ちょっと都会ぐらいだろう。そんな所にあった。インターホンを押しても、どうせ返事なんてない。躊躇い無く扉を開け、不死川は入っていった。
思いの外綺麗にされていた。いや綺麗過ぎる。冨岡が最期に掃除したのだろうか。一回り一階は見た。次は二階だ。部屋が続いていた。多分冨岡の部屋と冨岡の姉の部屋だろう。その奥に一際大きな部屋があった。
不死川はその部屋を開けた。グランドピアノがあった。勿論、ピアノ椅子には誰も座っていない。ピアノの調律だろうか。ピアノの横に立っている人がいた。
「ん?不死川か。何でここに居るんだ?」
「うわあああああああ!?!?冨岡が生きてるぅうううう!?!?!?!?」
「なっ俺は生きてるぞ!人を勝手に死人扱いするな!」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。