彼女を抱きしめてしばらくしていると勢いよく病室の扉が開く。
病室に入ってきたのは俺の両親だった。
それに気づいた彼女は慌てて俺から離れようとするが、俺はそれを許さなかった。
そんなやり取りをしていると2人が俺たちの所へやってきた。
母は苦笑した。でも安心したような表情だった。
あなただけじゃなく、みんなに心配かけていたことを俺はようやく気づいた。
2人はそんな簡単に仕事を休むことができないはずだ。だって、今までもそうだったから。すると余り口を開かなかった父が話し始める。
苦笑いをして父さんは言う。
でも、俺は1つ疑問があった。
ずっと俺から離れようとぐいぐいと押していた彼女が動きを止めて俺の方を見る。
“ほら”と言って彼女は自分のスマホを俺に見せてくれる。それを見ると確かにあの日から3日経っていた。
てことは彼女は3日間も1人で悩んで、自分を責め続けていたのだと思うと更に申し訳なくなった。
俺はまた彼女を抱きしめる。
俺を宥めるように彼女は俺の背中をぽんぽんと叩く。
俺は彼女の肩に顔を埋める。そして“うん”と呟いた。すると誰かが俺の頭を撫でる。彼女にしては角度がおかしいと思い、顔を上げると母さんが俺の頭を撫でていた。
それでも母は俺の頭を撫で続けた。少し申し訳なさそうな顔をしている。彼女は何かを察したのか立ち上がると自分が座っていたイスを母に差し出した。
母はそう言って断ろうとしたが、彼女は笑顔で首を横に振った。
彼女は俺たちに軽く頭を下げて病室を出ようとする。
名前を呼ぶと彼女はこちらに振り返って首を傾げた。
俺がそう言うと彼女は満面の笑みで頷いた。
彼女は俺に手を振ると病室を出ていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!