ー無一郎side(前に引き続き)ー
中学は、あなたが入ったと言われる『私立キメツ学園』に受験し、合格した。
兄も文句を言いながら着いてきてくれた。
僕の事を心配してくれたんだろう。
優しい兄だ。
でも、クラスが多すぎてずっと一年生の間は見つからなかった。
二年になってやっと高等部見学という行事があり、チャンスだと思った。
悲鳴嶼さんに、名指しはいいのかと聞いてみたら、『さん』呼びを注意されながらも、良いと許可が下りた。
悲鳴嶼先生は何故か『悲鳴嶼さん』と呼びたくなるのだ。
他の教師や先輩も特定の人だけ、『○○さん』や呼び捨てで呼びたくなる。
何か前世とかで一緒だったのだろうか。
特によく屋上でぼっち飯している冨岡義勇先生は、その僕の気がかりな『何か』を知っている気がする。
まぁそれはいいとして、さっさと名指ししてあなたと一緒の班になって大丈夫だったか聞こう。
そう呟いてみる。
僕は何故か中学校に入って将棋部で活躍を少しすると人気を得てしまったからみんなわあわあうるさい。
有一郎兄さんも「そんなのアリかよ……。」と呆然としてしまっている。
当の本人に笑いかけ、そこまで行って挨拶代わりと言ってはなんだが、大きくなったアピールしようと思って手の甲にキスしてみる。
それはまぁ真っ赤になっていて反応がとても可愛い……。あぁ、変わってないなぁ。
保育園ぶりだね、と話しかけると『?』と言う顔をされてしまった。ショックでもしかして忘れてしまってるんだろうか。
あなたは察して話を合わせてくれたけど、覚えてなさそうだな。
同じ班になりとりあえず委員会を聞き出して、恥ずかしながらも頑張ってキス攻めしてみたけどなかなか思い出してくれない。
思い出すのはとても辛いだろうけど、誠に勝手ながら僕への想いをただ思い出して欲しかっただけなんだ……。
不良に絡まれているあなたを助け出したら、精神的ショックを受けて倒れてしまうとは夢にも思ってなかったんだよ……!
あなたの応答がないので急いで僕の携帯で救急車を呼び、病院に連れて行ってもらった。
僕は自分自身を責めた。
学校のみんなは『あの子を守ったんだから、無一郎君はすごいじゃない』と励ましてくれたけど、僕は前の状況と殆ど変わらなくて焦った。
帰りのSHRで先生からその話があり、無事だということを聞いたけど、僕は心配であなたがいる病院へと急いだ。
キメツ学園からすぐ近くの都立の病院で重体なのかと不安になったけど、そういう訳では無いらしい。
病院のあなたがいる病室に行くと彼女は
笑顔でそう話しかけてくれた。
僕は涙が出た。
そんな女神のようなことを僕にもう一度言ってくれるなんて。
一瞬で僕の顔が火照ってくるのが分かった。
やっぱりこの人には保育園の時から敵わないや……。
僕は病室のベットで横になっているあなたの背中を抱き締めて、耳にキスし、
と囁いたのだった。
〜無一郎君ルートCLEAR!〜
ーその頃病室を覗いていた姉ー
病院のお姉さんは計五時間ずっとシスコン姉のマシンガントークを聞かなければいけなくなったのだった──。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。