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2021/05/20

第5話

5話
 翌日登校したが、あなたの隣は空席のままだった。そういえば家も近いのに、今朝から姿を見ていない。あなたがどうしたんだろうと心配していると、HRに来た担任からヨハンが病欠したことを告げられる。
 昨日日が落ちて寒い中ヨハンが待っていたことをあなたは思い出した。あのとき触った手はたしかに冷たかった。『ずっと待っていた』だなんて嘘ばっかり、なんて思っていたけれど、あながち誇張でもなかったのかもしれない。責任感を覚えたあなたはプリントを届ける役を買って出た。
 何度も何度も先生に書いてもらったメモと部屋番号を照らし合わせた末にあなたがピンポンを押すと、室内からなにかが落ちたような鈍い音が聞こえてきた。ややあって、スピーカーフォンからノイズが聞こえてくる。
ヨハン
ヨハン
はぁい
 へろへろの声で応じたのはおそらくヨハンだろう。ガチャリ、と内側から鍵を開けられる音がして玄関が開かれる。
 現れたヨハンは昨日の服のままで、髪もぼさぼさだ。あなたの顔を見つけるとぱあっと表情を輝かせ、十代に気づくとどんよりと表情を曇らせる。
ヨハン
ヨハン
あっ、あなただー! ……げ、十代
十代
十代
ヨハンとあなたを二人っきりになんてできないからな!
ヨハン
ヨハン
帰っていいよ?
十代
十代
絶対帰らない!
ヨハン
ヨハン
……あ、そう
 ヨハンは本調子ではないのか、それ以上は言い返さなかった。ヨハンはふらふらしながら壁伝いに手をついて奥へと二人を案内する。白を基調にしたワンルームだ。引っ越したばかりなのもあってか室内には生活できる必要最低限のものしかなく、そこかしこに段ボールが積み重ねられている。
 ヨハンは寝室に入ったところでぐらり、バランスを崩した。
ヨハン
ヨハン
……っと
(なまえ)
あなた
危ない!
 とっさにあなたがヨハンを抱きとめた。たっぷりとした胸に腕を挟むような形になる。
ヨハン
ヨハン
あは、ありがとね
(なまえ)
あなた
大丈夫?
ヨハン
ヨハン
うん。……あなたの胸、ドキドキしてるね
(なまえ)
あなた
え、そ、そうかな?
ヨハン
ヨハン
俺もドキドキしてるよ。触ってみる?
(なまえ)
あなた
えと……
 それは一体どういう意味なのか。あなたが尋ねようとした、そのとき。
十代
十代
ゴホン!
 二人の甘いやり取りを妨害したのは十代の咳ばらいだった。チッと舌打ちするヨハンとは対照的に、十代はにっこりと満面の笑みを顔に貼りつける。
十代
十代
そんなに歩くのが大変だったら俺が運んでやるよ、ヨハン♡
ヨハン
ヨハン
離せ! いまあなたと話してたんだ! あなた~!
 哀れっぽい声をあげてあなたのほうへ手を伸ばす厄介な患者をベッドへ引きずっていった十代は、キッチンに立ってなにかを作り始めた。多分お粥か雑炊かなにかだろう。鍋がふつふつ煮立ってくると、だしのいい匂いが漂ってきた。
 あなたがベッドの傍に座って慌ただしく動く十代を眺めていると、ヨハンが弱った声を出してあなたを呼んだ。
ヨハン
ヨハン
あなた……
(なまえ)
あなた
なに?
 振り返れば、熱に目を潤ませたヨハンがいた。
ヨハン
ヨハン
寂しいから手、握って……
(なまえ)
あなた
いいよ
 あなたが布団から頭を覗かせていた手を握ると、弱々しい力で握り返される手のひらが、熱い。
ヨハン
ヨハン
あなたは優しくて好きだな……
(なまえ)
あなた
ねえ、なんでわたしのことそんなに好きなの?
ヨハン
ヨハン
運命的に出会っちゃったから、かな
 そう答えるとヨハンはウインクをして、続ける。
ヨハン
ヨハン
俺……日本には十代っていうすごいデュエリストがいるって聞いてさ、修行に来たんだ。それなのに当の十代はデュエル部にすら入ってない、十代にとってデュエルはお遊びなんだって知ってびっくりした……っていうより怖くなった。こいつが本気を出したらどうなるんだろうって気になった。知りたくなった。だから俺は……アイツが本気になれるように、アイツの大事なものを奪うことにしたんだ
(なまえ)
あなた
え……っ
 どきっと鼓動が高鳴る。吐く息が冷たい。
 それをあなたに言うということは宣戦布告のつもりか。
ヨハン
ヨハン
なーんてな。本気にした?
 ぺろ、と舌を出して笑うヨハンにさっきまでの真剣さはない。
(なまえ)
あなた
っ……もー。びっくりしたよ
ヨハン
ヨハン
からかってごめんな。でも運命的な出会いだったってのはほんと
(なまえ)
あなた
そ、そうなの……?
ヨハン
ヨハン
うん。だってこんなかわいこちゃんが隣の席で、家も隣だなんて、ラッキーボーイ以外の何物でもないだろ?
(なまえ)
あなた
……
 表情を変えずにそんなことを言うヨハンに、あなたは恥ずかしさのあまりそれ以上なにも言えなくなる。
 沈黙を破ったのは、陶器と木が触れ合う音だった。あなたが音のしたほうを振り返ると、十代が雑炊をテーブルに置いたところだった。できあがったそれは野菜たっぷりで、いかにも栄養がありそうだ。
十代
十代
多めに作っといたからしっかり食べるんだぞ。あなた、帰ろうぜ
(なまえ)
あなた
う、うん
ヨハン
ヨハン
あなた、行っちゃうの?
(なまえ)
あなた
うん
ヨハン
ヨハン
明日も来てほしいな……
 ヨハンはすこし恥ずかしそうにそう言った。一人というのは、やっぱり寂しいのかもしれない。あなたは僅かな逡巡のあと、こくりと頷いた。
(なまえ)
あなた
いいよ。じゃあ、また明日ね
ヨハン
ヨハン
うん、また明日
 あなたは後ろ髪引かれる思いでその場を後にした。すこし離れた場所に立っていた十代に「何の話をしてたんだ?」と聞かれたけれど、曖昧に濁しておいた。