第2話

ふたりよりもみんなで
久留 柑奈
久留 柑奈
う、うん……。
親戚の集まりは三が日で終わるから、今のところ特に予定はないかな。
それがどうしたの?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
その日だったらまだ店も休みだから……映画、に行かない?
シェフとパティシエールを目指す人たちの映画
久留 柑奈
久留 柑奈
えっ

その映画は、最近テレビでも宣伝されていたので私でも知っているし、興味もあったものだ。


けれど、アルバイト先の人と、プライベートで出掛けるのは初めてのこと。


私は戸惑ってしまい、答えに詰まってしまった。
久留 柑奈
久留 柑奈
(まあ、でもあの映画なら行ってみたいかな……)

暇を持て余すよりは、有意義だろう。


そう思い、返事をしようと口を開く。
久留 柑奈
久留 柑奈
い……
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
ち、ちょっと待って!
伊豆 純弥
伊豆 純弥
待った待った!

私の声は、店長と純弥さんによって遮られてしまった。


突然被せられた声にびっくりして、店長と純弥さんの方を振り向く。
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
あの、その日は……。
うちの近くにできたパティスリーの視察に、柑奈さんも同行してもらおうと思ってて
伊豆 純弥
伊豆 純弥
マジか、柊伍も?
俺は、いい茶葉を扱ってる店を見つけたから、柑奈ちゃんに試飲してって誘うつもりで……
久留 柑奈
久留 柑奈
え……ええっ!

なぜこんなにも誘いが被ったのだろうと思ったけれど、よくよく考えてみると、定休日以外、私たちはほとんど一緒に働いている。


私は大学があるので、この店の人とも、なかなか外に出かける機会がない。


一瞬、デートに誘われるのかと思ってドキリとしたのだけれど、そういう事情ではなかったようだ。


仕事熱心な彼らの考えそうなことに、尊敬の念すら抱いてしまう。


けれど、慧斗くんだけは、あからさまに嫌そうな顔をした。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
やっぱりメッセで聞けばよかった……
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
ごめんね、飴谷くん
伊豆 純弥
伊豆 純弥
残念だったな、慧斗

恨めしそうに店長と純弥さんを見た後、慧斗くんが私に返事を促すように見つめてくる。
久留 柑奈
久留 柑奈
(別の日にそれぞれってなると大変だし……。あ、そうか!)

みんなの視線が私に集まる中、一番いい返事を思いついた。
久留 柑奈
久留 柑奈
じゃあ時間で区切って、順番にでいいですか? それか、みんなで一緒に行きます?

私としてはえた答えだったと思うのに、三人とも口を開けたまま固まってしまった。
久留 柑奈
久留 柑奈
(あれ……? それは嫌なのかな)

私の顔に、苦い笑みが浮かぶ。


直後、慧斗くんが痺れを切らしたようにテーブルを叩いて立ち上がった。
久留 柑奈
久留 柑奈
慧斗くん……?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
いや、だから。
これはデー……
伊豆 純弥
伊豆 純弥
こらこら。
大人になれ、慧斗
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
飴谷くん、せっかくだからみんなで行こうよ

慧斗くんが何かを言おうとすると、またもや純弥さんが遮って、店長が宥めた。


純弥さんが肩を組んでくると、慧斗くんはしかめっ面をする。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
ずるい大人にはなりたくないっすね……
伊豆 純弥
伊豆 純弥
こういうのは、狡いんじゃなくてクレバーって言うんだよ?
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
あはは……。
それも違う気がするけど

普段から三人は仲がよくて、こうして頻繁にじゃれ合っている。


けれど今回ばかりは、慧斗くんの納得がいっていないようだ。
久留 柑奈
久留 柑奈
慧斗くんは、みんな一緒だと嫌?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
……できれば避けたかったけど、もういい
久留 柑奈
久留 柑奈
ほんと? じゃあ、みんなで行きましょう!
みんなでお出掛けなんて初めてだから、楽しみです!

男性三人に女子ひとりというのは、ちょっと変わって見えるかもしれないけれど。


私が信頼し、尊敬する人たちだからこそ、きっと楽しい一日になる。
久留 柑奈
久留 柑奈
あ!
いつも皆さんにはお世話になっているので、お弁当を作って行きますね!
苦手なものとかありますか?
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
オレは特に……
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
僕も何でも食べるよ。
楽しみにしてるね
伊豆 純弥
伊豆 純弥
俺はゴボウだけ苦手。
ごめん
久留 柑奈
久留 柑奈
それくらいだったら、全然問題ないですよ。
腕によりをかけて作りますね!

お弁当の話題で気が逸れたからか、さっきよりも穏やかな雰囲気になってきた。


私の頭の中は、既にお弁当の中身のことでいっぱいだ。


【第3話へつづく】