第15話

悔しさを優しさで包み込んで
元カレ
元カレ
逃げんなって。
ってか、こんな店でバイトしてたら、また太るよ?
元カレの取り巻き
元カレの取り巻き
え、この子、そんなに太ってたの?
元カレ
元カレ
ああ、マジでやばかったよ。
二の腕とか太ももとか、あごもたっぷたぷでさー

大声で話すものだから、他のお客さんにも聞こえてしまう。


明らかに馬鹿にされているのに、お店に迷惑を掛けたくないから、言い返すこともできない。
久留 柑奈
久留 柑奈
(我慢、我慢……!)

悔しくて溢れそうな涙を、必死に堪えた。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
柑奈、オレが代わる
久留 柑奈
久留 柑奈
慧斗くん……
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
三番テーブルの常連さんが、柑奈のオススメを聞きたいって
久留 柑奈
久留 柑奈
わ、分かった

慧斗くんは、掴まれていた私の腕をそっと外し、解放してくれた。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
すーっ、はーっ……。
……ご注文は?

大きく深呼吸する音が聞こえたかと思いきや、ドスの利いた声で注文を迫る慧斗くん。


その威圧感からか、元カレを含めたグループ全員が静かになった。
久留 柑奈
久留 柑奈
お待たせしました。
お呼びでしょうか?
常連客
常連客
あっ、柑奈ちゃん。
絡まれてたみたいだけど、大丈夫?
久留 柑奈
久留 柑奈
はい、ご迷惑をお掛けしてすみません……
常連客
常連客
あの店員さんに頼まれて、助け船のつもりで呼んだだけ。
気にしないでね
久留 柑奈
久留 柑奈
わわっ……!
お気遣い感謝します!
ありがとうございます!

見かねた慧斗くんが、咄嗟に判断してくれたらしい。


ふと、純弥さんを見ると、手を動かしながら「大丈夫?」と口の動きだけで聞いてくる。


私が頷くと、店長が様子を見に出てきた。


他のスタッフが、呼びに行ったようだ。


純弥さんがジェスチャーと視線のみで状況を伝えると、ある程度理解できたのか、頷くところが見えた。
久留 柑奈
久留 柑奈
(よかった……。でも、まだ気は抜けない……)

注文通りに、コーヒーと紅茶、スイーツを、慧斗くんが彼らのテーブルに運ぶ。


このまま大人しく食べて、さっさと帰ってほしいと願う。


けれど、彼らは先程の対応が気に食わなかったのか、急に態度を大きくした。
元カレ
元カレ
おい、これ注文と違うだろ
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
……いえ、復唱して確認もしましたが?
元カレ
元カレ
違うったら違うんだよ。
お前、客をナメてんのか?
元カレの取り巻き
元カレの取り巻き
ってかさー、味はいいかもしれないけど、店員の態度がサイアクー

彼らはイライラした素振りを見せながらも、途中で笑っているところを見ると、半分は悪ふざけだ。
飴谷 慧斗
飴谷 慧斗
そうですか。
ですが、こちらに間違いはありませんので。
ごゆっくりどうぞ

慧斗くんは堂々として、彼らを放置した。


でも、このままだと他のお客さんに迷惑がかかる。
久留 柑奈
久留 柑奈
っ……!

やっぱり注意しようと踏み出したところで、後ろから腕を掴まれた。
伊豆 純弥
伊豆 純弥
柑奈ちゃんが行ったら、あいつらの思うつぼだ
久留 柑奈
久留 柑奈
でも……私のせいですし……
伊豆 純弥
伊豆 純弥
違うって。
柑奈ちゃんは何も悪くない。
幸せそうに働いている姿が気に食わなくて、ちょっかいを出しているだけなんだよ。
ここは、柊伍に任せよう

その言葉の通り、いつの間にか店長は私の近くまで出てきていた。


いつでも彼らと話ができるように、準備していたようだ。
久留 柑奈
久留 柑奈
店長、すみません……
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
大丈夫だよ。
純弥、状況を教えて?
伊豆 純弥
伊豆 純弥
一番偉そうにしてるのが、柑奈ちゃんの元カレ。
いちゃもんをつけて、嫌がらせしようとしてる
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
分かった

店長は、颯爽と彼らのテーブルに向かって歩いて行った。


【第16話へつづく】