第14話

元カレと苦い思い出
ぎこちなくなるかと思われた私たちの関係も、お店に出てしまえばそうでもない。


一月は順調に過ぎていき、バレンタインデーフェアの広告やPOPを出すと、限定のガトーオペラを中心に予約が増えてきた。


クリスマスほど多忙ではないし、競合店のおかげで一時的に来客は減ったけれど、私の予想通り客足は戻ってきている。
久留 柑奈
久留 柑奈
店長、初日分のガトーオペラは限定数に達しました!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
分かった。
順調に売れてるね
久留 柑奈
久留 柑奈
はい! お客さんにも、早く食べて欲しいです。
ラッピング、頑張りますね!
栗栖 柊伍
栗栖 柊伍
よろしくね

バレンタインデーに向けて忙しくなる中、以前とは違うことがもうひとつ。


店長、慧斗くん、純弥さんを、〝異性として〟意識しながら接するようになった。


肌が触れそうになると緊張したり、誰かひとりと休憩室でふたりきりになるのを避けたり――。


恋って難しいんだなと、つくづく思う。


三人のうち誰かと付き合うことによって、みんなの関係がうまくいかなくなったら。


もしも付き合った後に別れてしまった場合、店長と元カノさんかもしれない人のように、曖昧な関係になるのではないか。


そうなったら、私はきっと、ミラージュを去るという選択をするだろう。


考えるほどに、不安も大きくなってくる。
久留 柑奈
久留 柑奈
(今のままじゃ駄目なのかな……)

三人とも断る、という選択肢が今は最有力だ。


でも、あの三人なら絶対に大切にしてくれるし、素敵な恋ができるだろうとも思う。
久留 柑奈
久留 柑奈
(本当は、あれから気になり始めた人がいるんだけど……それが恋なのかは、まだ分からない)

中途半端な思いで告白を受け入れるのは、相手にも失礼だし、自分をないがしろにすることになる。


告白してきたのは元カレの方だったのに、安易に受け入れたことで、結果的に傷つくこととなった。


一緒にいて楽しいと思ったこともないし、別れる時も後悔はなかったという苦い思い出。


高校生の時、それを嫌というほど味わったから、もう二度としない。
久留 柑奈
久留 柑奈
(ああ……。時間だけがどんどん過ぎていく……)


***



そうして時間は過ぎ、二月一日。


まだ答えを決めかねているというのに、もうあと二週間もなくなった。
久留 柑奈
久留 柑奈
(ほ、本格的にまずい……!)

揺れる心を誰にも見透かされないよう、仕事中は絶対に笑顔だと決めている。


それでも、笑顔を保てない瞬間がやってきた。
久留 柑奈
久留 柑奈
いらっしゃいませ。
……っ!
元カレ
元カレ
あれ? 柑奈じゃん!

若い男女の四人組が入ってきて、そのうちのひとりが、私の元カレだった。


彼の父親が多数の不動産と土地を所有している関係で、お金使いは派手で、外見もそれなりにいいので女性の方から寄ってくる。


私も、人の良さそうな外見に騙されたひとりだ。
元カレ
元カレ
おまっ……。
痩せたな! あ、そうか。
俺のためにダイエットしたのか!
元カレの取り巻き
元カレの取り巻き
えー! 超健気けなげじゃーん!
久留 柑奈
久留 柑奈
…………

私の今の姿を見て、勝手に勘違いして、仲間と一緒に騒ぎだす。


見た目は良くても、中身は最悪だ。
久留 柑奈
久留 柑奈
店内でお召し上がりでしょうか?
元カレ
元カレ
うん。
えー、ほんと見直した。
かわいくなったじゃん

そんなことを言われても、ちっとも嬉しくない。


黙って席まで案内する間も、じろじろと私の全身を見てくる。
久留 柑奈
久留 柑奈
こちらへどうぞ。
ご注文がお決まりになりましたら、お呼び下さい

私は今、ミラージュの店員なのだから、これくらいで言い返すわけにはいかない。


無理に笑顔を浮かべて、メニュー表を渡すと、元カレに腕を掴まれた。


【第15話へつづく】