慧斗くんからのメッセージは――。
【柑奈のことだから、『あれは夢だったのでは?』とか言い出しそうだったから、送っておく。
夢じゃないからな】
という、念押しの内容。
感嘆の声が出る。
慧斗くんはパティシエになるための勉強にストイックなイメージで、普段も口数は少ない。
彼からの告白に、実は一番驚いている。
慧斗くんに出会ったのは、ミラージュでの採用が決まって、研修初日の顔合わせの時。
学生やフリーター、主婦など、それぞれが自己紹介をする中で、慧斗くんだけは強く印象に残った。
洋菓子技術の専門学校に通いながら、アルバイトでも勉強を重ねる姿に、私は畏敬の念を抱く。
研修初期の頃は、私が笑いかけても、そっぽを向いてどこかに去ってしまうことが多かった。
めげずに私の方から慧斗くんに話しかけることを重ねて、少しずつ慣れてくれた印象だ。
店長が、抹茶やきな粉を使ったスイーツを開発している時は、慧斗くんも意見を述べていた。
閉店後も、ふたり並んで意見を出し合う姿は師弟のように見えて、私もふたりの未来を心から応援している。
慧斗くんは、学校の実習で作ったというスイーツを、みんなには内緒で、私だけにお裾分けしてくれることがある。
てっきり、甘いものが好きな私にだけ、厚意で分けてくれていると思っていた。
あれは厚意だけじゃなくて、彼なりの〝好意〟のアピールだったのかもしれない。
ようやく気付いた瞬間、申し訳なさと照れくささが同時にこみ上げてきた。
【第13話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。